魔女集会と聞いて
「魔女様、本当に迂闊だよね」
「なんだと」
かれこれ三百年生きてきた魔女を捕まえて罵ってきた金髪にガンを飛ばせば、可愛げのない男は鼻で笑って戸棚に置かれた瓶に手をかけた。
森で拾った頃はそれはそれは可愛らしく、教会に飾られた絵の中の天使が抜け出したのではないかと思うほどだったのに。
気がつけばその天使ももう大人。体格も態度もでかく育ってしまった。
「何処かで育て方間違ったかしら」
「は?」
「だってそうでしょ。私が拾った頃は素直で可愛かったのよ。あと口が悪くなかった」
「いつの話してるの。あと僕に関わってきたのは魔女様だけじゃなく、サタナースもだからね」
「口の悪さはアイツのせいか」
同じ魔女仲間であるベンジャミンが溺愛している男である。
「それより、手を出して」
「なんで」
「さっき火傷してたよね」
「平気よ。私を誰だと思ってるの」
「治癒魔法が下手くその氷の魔女様」
「ぐ……」
痛いところを突かれた私は、特大の何かが刺さった胸を擦った。魔法を極めた魔女であるのに、どうしてか治癒魔法だけはできない。だからその分薬学に力を入れたおかげか、本来は魔女を恐れるはずの住民たちと仲良くする事ができている。迫害されないだけありがたいことではあるのだが、なんというか……。
魔女集会と聞いて
「男だから力もある」
時折来る旅人の中には不届き者もいる。いくら魔法で撃退できるとはいえ、四六時中身動きが取れるわけではない。睡眠中に襲われでもしたら溜まったものではないのだ。
「だから、いい加減腹括って」
「嫌よ」
嫌だ。それだけは嫌なのだ。
彼が続けるであろう言葉を遮って否定する。ここ何年も繰り返す同じやり取りに、アルウェスは溜め息を吐いた。
「どうしても?」
「どうしても」
「他に好きな人でもいるの」
違う。そうじゃない。好きな人など私に居るわけがない。……居て良い訳がないのだ。
彼が、アルウェスが求めるのは【魔女の騎士】。長命な魔女を守り、魔女と共に生きる存在。
長命な魔女を守るために彼らも長命な存在となる。魔女が死ねば、同時に死ぬようなそんな関係だ。
「あんたにはあんたの人生があるの。振り回して良いものじゃない」
だから受け容れられない。私が死ねば死ぬなんて、そんなものに縛っていい人じゃない。
「他でもない僕が良いと言っても?」
「今は良くても、そのうち」
「飽きる訳が無い」
軟膏の臭いがする手を取ったアルウェスは、甲に口付けを落とすと。
「君だから良いんだ。どうか受け入れて、ナナリー」
縋るような目で見る男に、絆されるのも時間の問題だなと唇を噛み締めた。
魔女集会と聞いて
「私、舐められてるわよね?」
この間、街の市場で薬を売ろうと店の準備をしていたら木箱に足が絡まって盛大にすっ転んでしまった。周りにいた人たちが大慌てで集まり、『魔女様大丈夫?』『痛かったね、飴食べる?』『おーい、誰か手当てしてくれ』と、子供扱いされまくった事があったのだ。
「私、彼らより長生きなんだけど」
「……長生きしてる割に鈍臭いから迫害されないんだよ。良い傾向だ」
「えっ、褒めてるの?貶してるの?」
それは果たして良い傾向と言えるのだろうか。別に偉ぶりたいわけじゃないが、長命種としてはもうちょっと威厳が欲しいと言うか。
「向いてないから諦めて」
バッサリと切り捨てた居候は、許可なく私の手を取ると戸棚から取ってきた瓶の蓋を開けて、先程火傷した箇所に中身の軟膏を塗りつけた。
「ねえ、魔女様」
「なによ」
「僕、役に立つと思わない?」
ガラリと変わった空気に、来た、と身構える。
ここ何年も度々味わってきたものだ。人間で言うと成人してからというもの、この男は腹を括れない私を徐々に追い詰めていく。
「僕は狩りができる」
「そうね」
街があるとはいえ野生動物が闊歩する森だ。生きるには必要と教えたのは私。