ぎゅっと握ったチョコレートの包装は、あいつの髪色の金。綺麗に結んだリボンは紅色で…。これが誰宛てなのか言わなくても分かってしまう。
いつ渡そうかと今日一日そわそわしていたが、放課後、漸くチャンスが巡って来た。借りていた本を返す名目でやって来た図書室だが、今日の目的はそれだけじゃない。チラリとあいつがいつも座っている指定席へと視線を向けると一瞬目が合った気がしたがきっと気のせいだろう。
今日渡さなければ意味がないのだ。早く、早く。気だけ焦るのに足が動かない。いつものくだらない馬鹿話や、喧嘩を吹っ掛けるだけなら簡単に出来るのに。
漸くあいつの側にある本棚の影まで近付いた。すぅっと息を吸って目だけ覗かせる。すると学校一美人で性格が良いと評判のあの子があいつにチョコを渡す所だった。
「っ!」
咄嗟に本棚の影に隠れ、しゃがみ込んだ。そしてそのまま逃げるように走り去る。あぁ、私何やってんだろう。周りに励まされて告白しようとしたが、このザマだ。好敵手のあいつが私をそういう対象で見てない事は知っていたのに。
「こんなもの…」箱に詰めた想いと共に捨ててしまおう。
思い切り振り上げた私の手首を誰かがふいに掴む。
「ちょっと待って!ヘル」
何故か珍しく焦った紅が瞳に映っていた。
#1T67SS