澤村伊智『ぜんしゅの跫』読了。短編集。 

「鏡」

感じの悪い思考を息をするように撒き散らしながら、自分では至極まっとうな(むしろ優秀な)人間だと心から信じている、どこかで見たような主人公だなと思って読みはじめたら、本当に以前読んだ主人公だった。この悪気のかけらもない変に素直な性格が、妻の立場に立って読むと心から嫌なところであり、一歩離れて傍から見れば何かしら哀れに見えるところでもある。

ここまでシリーズを一通り読んできて振り返ると、やはり自分の中では「ぼぎわん」が一番印象に残っている。やや不穏な雰囲気をちらっと見せたラストの後はどうなったのかと気になるところでもあった。
この短編「鏡」の世界は、その答なのかもしれない。が、彼の「こうはなってほしくない」という偏見だらけの内面がそのまま映し出された架空の世界かもしれないじゃないか、とも思える。いや、思いたい。もはやご都合主義でもいい、子どもには優しい未来が待っていてほしいし、比嘉姉妹や周囲の人々にも穏やかな生活があってほしい、とつい願ってしまう、意志の弱い読者である。

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