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澤村伊智「ずうのめ人形」読了。少しネタバレかも。 

この作者は、歪な家族の形や無意識に差別的言動をとる人物を書くのがうまいなと思う。前作に続き、いわゆるホラー的な恐怖よりも、出てくる人間の方がよほど怖い。作中作の主人公里穂の何とも辛い家族の形や、母の恋人や担任教師の見下しや無神経な言動などは、眉を顰める思いで読んだ。しかも終盤まで読むとさらなる怖さが。一旦最後まで読んで里穂の真相を知った上で二周目を読むと、ここはそういう意味だったのか、と一段とゾッとするであろう作品。
ミステリでも「信頼できない語り手」という言葉があるけれど、それにもいろいろなパターンがあるわけで、騙すつもりで嘘を言う場合や、意図的に一部のことを語らない場合から、本人自身も本気で自覚がなかったり記憶を封じ込めていたりという場合まであるわけだ。主観ほど不確かなものはないのかもしれない。現実でも、都合のいいことはしっかり覚えている一方で、都合の悪いことは無意識に隠蔽しようとする傾向というのは、大なり小なりあることだろう。
読者として視点を共有してきて「普通」に見えていた主人公藤間もまた、ラストで不穏な雰囲気を漂わせる。同じように、誰の中でもふとした拍子に何かがおかしくなることはあり得るのだろう、と考えさせられる。

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