昭和世代の人なら、ドラマ「エルピス」の松本さんの逮捕にいたる回想シーンで、刑事が訪れた時に少女が都合よく松本さんの家にいたシーンを見て、松本サリン事件で当初逮捕された河野さんの家には、びっくりするぐらい都合よく薬品があったことを思い出したのではないでしょうか(松本という名前は松本サリン事件を想起させるために意図的に選ばれたと思う)
最終回まで見て、政治やマスコミや警察といった「権力」に切りつけた本作に賞賛を送る僕たちですが、その僕たち自身もまた主権者という「権力者」であり、何十年も前から問題が指摘されている死刑制度を怠慢にも放置し続けている当事者であるわけです。
現実の事件を原型がわからないほど分解して再構成するのは容易いのに、あえて原型をとどめてコラージュにしたのは、そんな僕たちの喉元にナイフを突きつけて、この現実に権力者であるあなたたちはどう答えるのかと問うているのではないかと思いました。

bunshun.jp/articles/-/59864

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蛇足を少し。「エルピス」の初回、オープニングで参考文献として実在の冤罪が疑われる事件に関する書籍があげられているのを見て、強烈な違和感を感じました。エンディングならともかく、人気俳優が出演する民放のドラマのオープニングに、原作本でもない参考文献を毎回あげる意味はなんだろう。
そこには、視聴者に、現在進行形の冤罪事件の存在を知ってほしいという願いが込められているのではないか。ドラマの中で村井や岸本が真実を伝えたいという欲望のために大門を死なせたように、佐野さんや渡辺さんが現実の事件をコラージュするという方法を選んだのはそのためではないか。
凄惨な事件が起きると、僕たちは怒り犯人を捕まえて死刑にすることを求めます。しかし時間が経つとそんな事件のことなど忘れ、次の事件へと関心を移していきます。あれだけ騒がれたオウム事件のこと最近思い出しましたか?参考文献に掲げられている事件の概要って言えますか。
直接の加害者でも被害者でもない僕らは、そうやって消費し忘却しながら生きていくのですが、このドラマを最後まで楽しんだなら、「続編希望!」などと無邪気につぶやく前に、せめて参考文献の一冊でも手にとり少しだけ立ち止まって考えてみたらいいんじゃないか、そんなことを思いました。

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