僕は君の愛の奴隷 

たまたま見掛けた愛しい水色に仕事中だというのに浮かれてしまった。
何せ、僕たちにしては珍しく久々の逢瀬のチャンスだったから。
なんて声をかけようかと距離を縮めれば、彼女に声をかける人物がいて、そのまま何やら話を始めたところだった。
盗み聞きをする趣味はないと足を緩めれば、相手の男の手には魔法陣の描かれた紙があり、見覚えのあるそれに咄嗟に割り込んだ。
光が身体を包み込む。「ロックマン?!」と焦った声はナナリーのもので。恋人になりしばらく経つというのに中々名前を呼んでくれない彼女を声を頼りに引き寄せて視界を彼女でいっぱいにする。
そのまま顔を近づけて、ふわりと香る花のような香りにくらりとしながら、果実のような甘いくちびるを貪った。しっかりと刻み付けられるように。
解放した頃には酸欠と他の理由でフラフラな彼女をしっかりと腕の中に抱き込む。何が起こったのかまだ把握出来ていないのか固まっている。
そんな彼女をいいことに、元凶へと視線を向ける。彼女へ魔法を放った相手は腰を抜かしてへたり込んでいた。
「ろろろろ、ろ、ロックマンっ、こんなとこでなななな、なにするのよっ!」
「この男の持っていた魔法陣」
「魔法陣…あっそういえば」
「あれは隷属の魔法だ」
「…隷属?」

僕は君の愛の奴隷2 

隷属の魔法陣は古代魔法のひとつで、奴隷や王が臣下、側室などにかけたものだそうだ。
発動すると主を認識させるために姿かたちのインプットと体液を含ませる必要がある。大凡の場合は術者の血液が使われた。
「だから君の体液を貰った」
「な…なるほど…ってなんで!そうなるのよっ!」
「不完全なままじゃ魔法にすらなってないからと魔法を解くこともできないだろ」
「ならさっさと解きなさいよ。そんな悪趣味な魔法」
「そう思ったんだけど、解けないみたいだ」
「はぁ?!」
さすが古代魔法。そんな簡単には解呪が出来ないようになっている。これはもしかして…
「隷属の魔法だからか、魔法が発動してから僕の魔力がおかしい」
「おかしいって身体大丈夫なの?」
「体調は問題ないよ。もしかしたら、僕のご主人様は君だから君にしか解けないかな?」
「でも、解くって言ったってどつやって…」
ゆっくり考えよう。とりあえず僕の仕事部屋に行こうと言えば状況が状況なだけに素直に頷いたナナリー。
現況の男を騎士の詰所に放り込んで、ナナリーを連れて城に戻った。

フォロー

僕は君の愛の奴隷3 

城に戻るまでにも一悶着あった。
魔法が発動してから、やけに僕はナナリーに触れたくて仕方なかった。恋人だからと簡単に触れさせてくれる訳じゃないナナリーだから我慢したかったがどうも欲求は増すばかりで、手を繋ぐくらいならいいだろうかと隣を歩く彼女の手を取れば、身体に衝撃が走った。
「うっ、ぐ…」
「ロックマン?!」
これでも騎士で痛みにも強いと思っていたがそれでも目の前が白くなるような痛みだった。
「隷属…なるほどね…」
「どうしたの?」
「ご主人様の身体には許可なく触れることができないみたい。ねえ、ナナリー。手を繋いでもいい?」
「えっ、別にそれくらい大丈夫だけど…」
「ありがとう」
突飛な現状にまだ追いついてないのかあっさりと手繋ぎを許可するナナリーに、気づかれる前にと手を取る。
「大丈夫なの?」
心配そうに見上げてくるナナリーに今度は大丈夫と笑いかければ、ぽっと赤くして、視線をそらされた。
「でも、良かった」とポツリと聞こえたので、こんな状況だが可愛らしい彼女の反応に僕は楽しんでいた。

僕は君の愛の奴隷4 

城の一室に宮廷魔術師長である僕の部屋が与えられてる。執務室と仮眠室、応接室などを兼ね備えており、城の中でも上質な部屋である。
城ではたとえ僕でも魔法は極力使わない。それでも正面から入るのは色々と詮索されるのもまずいからと使い魔を利用して、窓から2人で入り込んだ。
やっと緊張から少し開放されたのかナナリーは小さく息をついている。
「疲れたよね。今、紅茶を入れるよ」
そもそも彼女は休日であったはずだ。
働き熱心な彼女でも休日を楽しみにしていることは知っているし、庶民の暮らしをする彼女は身の回りの事も全て自分でこなしているから、貴重な休日だったろう。
「ロックマン、無理しないでいいから」
それでも魔法を掛けられた僕を心配してくれているのは彼女の心根はとても優しいからだ。
紅茶を入れながら男とのやり取りや、その前にもなにか怪しいこととかなかったかと聞いてれば、近頃ハーレの周辺に不審者が出ていたようだった。因果関係は不明だが十分に警戒する余地はあったはずで、思わず溜息をついてしまった。
「でも、私あの人とは初対面だったのよ?ハーレでも会ったことないわ」
「接点はなかったんだね。相変わらず厄介なのに好かれるね。君」
「流石に覚えのないことまで警戒できないわよ」

僕は君の愛の奴隷5 

「隷属の魔法なんて聞いたことないわ」
そもそもとぽつりと言ったナナリーは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。
「古代魔法で今や禁術だ。城の奥深く禁書庫に仕舞われてる類の魔法だよ」
どうやってあの男が知ったのかはこれから調べられるだろうが、こともあろうによりによって彼女に使おうとするとは。
「解呪の為に資料閲覧の許可を貰っておくか…それにしても君の魔力に縛られるってのは案外悪いものじゃないね」
「はぁ?」
何言ってんだとでかでかと書いてある顔を見下ろして微笑む。
特に魔力を感じる首元に手を滑らせれば感触があり、首元を開く。
ナナリーはその様子にぎょっとしつつも、服の下から出てきたものに目を丸めた。
「首輪…?」
「なるほど、これが魔法と共に顕現するんだね。隷属の首輪だ」
机の手鏡を手繰り寄せ見てみれば深い藍色の生地に氷のシンボルが浮かび上がった首輪が付いていた。本当にこれではまるで…
「ナナリーの物になったんだね。僕」
「気色悪い言い方しないで!」
「本当のことだろう?なにか、命令してごらんよ」
今なら君の思うように僕は動くよ言えば、元々私に甘いんだから命令なんて要らないじゃないと返された。
「いつも以上に君に触れたくて、君からの愛が欲しくてたまらないんだ」

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