①アンビュランス
これはベイ映画の現状ベストではないかと思う。ペイン&ゲイン系の侘しさ路線とネタ的に語られるド派手路線(個人的にはこのネタ扱いは嫌いだが)を高次元で融合させ、止まらない救急車という物理的にノンストップな舞台立てにすることで状況も話も止まらないアクション映画になってた。
前作の6アンダーグラウンドも侘しさとド派手の融合を狙っている節があったのだけど、明らかにド派手の方が勝ってしまっていた。それに対し13時間は画面が派手な割に侘しさが勝っていた。それらに対しこっちは両者が上手く融合していたし、ベイの新境地と言っていいのではないかと思う。
現状の色々な意味でこのレベルのアクション映画を撮れる監督はもうベイ以外いないと思う。
③アテナ(Netflix)
これはプロジェクターとスピーカー揃えてよかった。あの混沌とした空間の最前線にいる感覚はテレビでは味わえなかった。本当は劇場でやるべきだと思うけど。
凄まじい混沌の中を物理的に移動していくのを長回しで撮ることで、空間がグラデーションで変わっていくのが分かるのがとてもよかった。
後これはインド映画のJOGIと対になる感じだった。どちらも暴動が起きた中でどう動くかの話なのだけど、アテナの方はどう限界に近い状況下で暴動を鎮めるために動くかで、JOGIはシク教徒に対する暴動(というか政治家・警官公認の虐殺)が起きた中でどう生き延びるために動くかの話。
混沌とした状況下でどう動くかとその中での人間性の話としてどちらも通じるものがあった。
⑤ブラックボックス
墜落した飛行機の音声記録から真相を探る抜群の耳を持った分析官。という設定で想像させるプロフェッショナルの奮闘物って印象がいい意味で裏切られたのがよかった。
パラノイア的に真相を明らかにすることにとりつかれた結果、自説に固執しておかしくなっていくという展開はミステリの主人公の造形としても珍しかった。
⑤グラスオニオン
ライアン・ジョンソンの「定石を外したい欲求」はミステリーこそ光る。BRICKの高校生探偵が「高校生だから」の甘え抜きで本気のハードボイルドをやったことからして分かってたけど。
このシリーズは名探偵の皮を被った「ミステリーの神様」が現世に顕れて人を救う話なんだと個人的には思ってる。事件解決や犯人当てより救済がメインなところが人の身の名探偵以上って感じがする。
ただ前作は救いきるとこまでやるのに対し、今作での「人の子よ、舞台は用意した。後は己で切り拓け」という感じの方がより定石から外れていて俯瞰で見ているミステリーの神様感あって好きだった。
同率5位はミステリー枠で甲乙つけがたかった。
⑦THE FIRST SLAM DUNK
漫画をアニメに置き換えるのではなく、間を省略しながらコマからコマへの視線誘導で成立している漫画表現においてコマの数を限界まで増やしたらどうなるか実験した結果アニメになった感じ。
それゆえに通常のアニメを見ているのとは全く異なる時間・空間表現を見ている実感があった。それだけでも価値がある。
同時にドリブルで一歩踏み出すことが、ずっと囚われていた罪悪感と希死念慮から解放されて自分の人生を歩きだすというストーリーもよかった。
というか、単純に観終わった後にバスケやりたいなと思った。これは映像のカメラアングルとして設定したのがプレイヤー目線なのが大きいと思う。レベルはさておき実際にプレーする感覚を思い出させてた。
④スティルウォーター
パパが娘の無実を晴らす物になるかと思いきや、そうじゃない方向にどんどん物語が転がっていく。この転がり方は予想外だったし、だからこそあのラストシーンの鉛を飲み下すような重さにつながっていたと思う。
というか、トム・マッカーシーの「真面目さ」が内容に発揮される以上に作劇の手法の方に発揮されてる感じだった。鑑賞後に思い返す方がなんて真面目におつらみポイントを貯めていくんだと思う。
だけど、あの世界が終わった後でも地獄が続く感じのラストシーンは忘れられないだろうな。