『ダ・フォース』読了

 「いかにして人は一線を越えてしまうのか。一歩一歩越えるのだ。」

前に1/5ほど読んで挫折したが、今回は完走。タイミングというものも大きい。が、この作品自体が進むにつれ熱量が上がりカオスと悲哀が爆発する大変面白いノワール、警察小説であった。

主人公はNYPDで辣腕をふるう白人の汚職警官、その日常、秩序を維持する"王"の苛烈な自意識がずらずらと開陳される前半。その中で一つの行動があまりにさらりと描かれ、いやぁさすが汚職のレベルが違う…と辟易。

しかしこの軽く見える一件が、自業自得の転落の道を熾烈にする問題であり、かつなぜ主人公は「警官」であり続けようとするのか?を語るもの…というのが大変面白くて。堕落し腐った悪徳の姿にも一抹の憐れみ切なさを感じるのを止められない。

約束された破滅の中で主人公が必死に汚れた手札を切るたび流れる血、司法全体の腐敗、街の腐敗、人種の軋轢がうねり絡み爆発する終盤のカオスなドライブ感が読ませる。怒りと後悔と矜持、やるせなくて涙が浮かぶ。

社会の腐敗と正義の堕落を徹底的に描きながら、それでも最前線の「現場」に臨み続ける者への敬意がある作品だった。あの序盤にしては意外にも読後感が悪くないんだよね、熱量と苦しい解放に放心するけれど。

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『ダ・フォース』続き

BLMの動きの中でのNY、警察を舞台にしたのが複雑で面白かったのだが、なによりも驚いたというか強烈だなと思ったのが、あの街のアメリカの人権意識の強烈さ。(フィクションだが、取材して書かれているはずなので相当実態を反映してるのだろうと思われる。)主人公がわが街の社会を紹介する時の人種や系統の羅列がすごいし、兄弟同然の仲や恋人であっても意識の溝がどうしてもある。また人種だけでなく様々なくくりで身内意識を持ち判断していて本当に強烈。様々な背景を持つ者たちが社会を形成し生きる上での知恵なのだろうが(構造的差別の影響もありそれも問題だと思うが)、ニューヨークまたはアメリカで生きるの本当に苦しそう…と思ってしまった。身内意識自体は理解できても、生活の中での程度の激しさは実態に触れてみないとわからないし何も言えないや日本の私は、とも思った。

あと、主人公の生きる中で全てをコントロールしようとする意識がまた強烈で、それによって自縄自縛になっている面もあり、いやぁ地獄だなぁと、楽しくないけれど見て読んでる分には興味深くて面白かった。それってアメリカ社会の意識でもあるのかな…など思ったりもする。

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