『帝国の亡霊、そして殺人』読了
1950年代初頭、インド初の女性警部ペルシスがイギリス人名士の殺人事件に臨む。ミステリとしてはオーソドックスながら舞台設定が興味深く、イギリスからの独立・印パ分離独立の混乱の暗い影、女性蔑視の社会や組織の圧力が絡み合い、事件捜査が展開され面白い。ペルシスが自身の在り方に悩みつつも猪突猛進といった様子で正義の捜査に向かう姿は応援したくなる。開明的ながら頑固でつい減らず口を叩く負けない性格なのが、危なっかしくもありハラハラ。
独立への歩み、印パ分離時の混乱という言葉では簡単すぎるインド社会の重たい動揺の一端が窺い知れる。独立を闘い続ける難しさ。
ペルシスの「いつから真実はどうでもいいものになったんですか」「将来に善を成す機会を残す」といった言葉が鮮やかに感じた。
次作も楽しみだ。
同じインドが舞台の『カルカッタの殺人』の一世代ちょっと後の話で、あちらの事を思いながら読んだりした。主人公がイギリス人とインド人(正確にはパールシーと言うべき?)という違いがありながら、同じような所に踏み入っていくのだよね。
『カルカッタの殺人』では、イギリス人警部が植民地支配の翳りの中でイギリスの統治者の欺瞞と対峙し、『帝国の亡霊、そして殺人』ではインド人警部がインドの独立への歩みの中で英雄好みの絶対視と対峙し、社会を成り立たせる難しさの中を進んでいく。