『テスカトリポカ』佐藤究 読了
現代裏社会の物語にアステカ神話が絡みついた時、そこに広がっていたのは心臓と生贄のまぎれもない神話。
血腥い神話と現代の犯罪社会、一見遠く感じるのだが、そこにある暴力性の近さ、古代の精神と資本主義が結びつけられるさまを見ると、確かに人間はいつだって残酷なのだと思い知らされるよう。
メキシコ、インドネシア、日本をかけて流れるような物語の展開、密売組織のナルコと医師の再浮上への道は背景描写も緻密で面白い。冷徹さと執心の理由、そして崩壊への疵をはらんでいたことも納得感がある。終始かなりの残虐な描写が続くが、文章のためか不思議としつこさがない。アステカの神秘性のもとに収斂されていく展開も、興奮はあるが、どこか乾いた感じ。それこそ、黒い煙が広がるような、乾いた邪悪を感じた。
その煙にまかれてしまった者達の中で、ナイフメイカーのパブロの話がやり切れなくて…一度煙の中に入ったらもう目をつむるしかないだろう、苦しさ。
テスカトリポカとは何か?が判明する瞬間が劇的で、映像が目に浮かぶよう。ただその後の展開にあまり関わってなかった気がするが、読み間違いだろうか。
驚くほど血腥かったが、力強いストーリーテリングで面白かった…!
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