ツィゴイネルワイゼン、冒頭中砂(原田芳雄)が焼きもろこしを食いながら現れ「女を殺したんじゃない、勝手に死んだんだ」とうそぶく。中砂は「なんでも腐っていく時が一番うまい」と言い、鰻の生き胆は女中が持っていってしまう。本作の食事シーン(咀嚼音が強調されており実に美味そうである)は他者の死を食らって自己を存続させる行為として描かれているように見える。笑気ガス中毒の末「何も食わず」桜の下で死んだ中砂、その訃報を聞く靑地を桜吹雪が飲み込んでいく。「生きているひとは死んでいて」生きていたように見えた登場人物は最後は全て中砂に食われていたのかもしれない。