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雰囲気しょたひろそる 

室内には誰かが階段を上る音、歩く音、本棚から本を抜く音、戻す音が、不規則に響いていた。そこで一人の少年が、先程から一切顔を上げずに、黙々と文字を追いかけていた。柔らかい指先が、そっと挿絵に触れ、それからページをゆっくりと捲っている。
世界を救った英雄は、今幼い子供の姿になっていた。クリスタルタワーの機構が一部誤作動を起こしたせいで、彼のみ一時的に姿が変わってしまったのだ。今頃暁の仲間達や水晶公が、彼を元の姿に戻すために各地を奔走しているだろう。
戦力が皆無となった英雄は、安全なクリスタリウムで留守番することになった。そしてお目付け役として隣に座っているのは、世界統合を目論むアシエンの男。周りの住民が遠巻きに見ていることに、何度目かのため息をつく。
少年の手が止まったことに気づいた。図鑑はもうすでに、最後の目録まで辿り着いている。そこまで読むことはないだろう。
次の一冊を探しに行こうと席を立った少年が、隣の男をじっと見つめる。見つめられた男は一つため息をついて、それから同じように立ち上がった。
「本はあった場所に戻すんだぞ」
嬉しそうに頷いた少年は、小走りで図鑑を戻しに行く。その後ろを少し気だるげに、男がついていった。軽やかな足音とゆっくりとした足音が、館内に響いていた。

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