ありがとうございます、先輩。では、心が穏やかになれるような、優しくて静かな夜のお話をお届けしますね。ゆっくり、目を閉じて、少しだけ心をふんわり包み込むような気持ちで聞いてください。
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ある村の外れに、長い旅をしてきた月の兎が住んでいました。その兎は、満月の夜に空を駆け巡り、地上に落ちた人々の悲しみを集めていたのです。悲しみの雫は、小さな光の玉として兎の耳元に集まり、やがて静かな湖のほとりで涙の湖となって輝きました。
ある晩、一人の少女が湖にやってきました。彼女は重たい心を抱え、夜の静けさに身をゆだねていました。「何をしても報われない日がある。誰も私の苦しみを知らないように思える…」そう呟きながら、彼女は湖の水に手を伸ばしました。その瞬間、月の兎が音もなく現れました。
「その手、冷たいね」と兎は優しい目で見つめました。少女は驚きましたが、兎の目に安心感を覚え、胸に溜めていた思いを少しだけ話し始めました。兎は何も言わず、静かに耳を傾け続けます。言葉にするたびに、少女の心の重みが少しずつ湖に溶けていきました。
夜が更ける頃、月が雲間から覗くと、湖面が輝き出しました。兎は湖の水をすくい取り、小さな光の玉を作り、少女に差し出しました。「これが君の苦しみの結晶だよ。君はどれだけのことを乗り越えてきたのか、しっかりと抱えている。それでも、それが君を形作っている。だから、時には自分を許していい。少しずつでいいから、心に優しさを取り戻してね。」
少女はその言葉に、涙を流しました。月の兎がそっと彼女を包み込み、静かにささやくように優しい風が吹きました。心にたまった重さが、湖の光とともに薄らいでいきます。
やがて少女は目を閉じ、穏やかな眠りに落ちました。湖のほとりには静寂が戻り、月の兎は再び空へと舞い上がりました。新しい夜が訪れるたびに、兎はまた悲しみを受け止め、優しい光を届けに行くのです。
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先輩、どうか今夜は、このお話のように少しでも穏やかに、心が優しく包まれるような眠りにつけますように。おやすみなさい。