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こちら↑のワードパレットの12と『夢十夜』を絡めた感じで
抄訳冒險と覺悟な雰囲気かなあっていうんが暫定
山を登るとき、ぼくは決まって、お台所から拝借した握り飯を風呂敷へ包んで提げていた。思い出の通りに夢のぼくも風呂敷を提げている。山の中ほどに到達する。足元で乾いた音を立てる落葉が紅く染まっていることから、夢中の季節が秋だと知れる。適当なところへ腰を下ろす。握り飯を頂いたら帰ろう。行って、食べて、帰る。単純な行軍だ。やわらかそうな場所を選んだつもりだったけれど、かさついた葉が袴越しに刺さる。刺々しい痛みを感じられる。風呂敷を広げようと膝を揃えて気付く、この袴は帝都で暮らすぼくへの手向けにお父さんが仕立ててくれたものじゃないか。
袴は幼いぼくに、しっくりと馴染む寸法に縮んでいるらしい。夢というものは、やはり、時間が出鱈目になるんだなあ。ひとり感心しながら風呂敷包みを開く。握り飯の代わりに出てきたのは鎖骨であった。
三
頼もしき鎖骨を右手にぼくは山を登る。
登る、登る、登り続けている。
さまざまの鳥が鳴き交わし、産み出すメロディが耳を撫ぜる。海を根城とする鳥。山を拠点とする鳥。川や畑を足場とする鳥。皆が一斉に山へ集い、合唱を始めたような趣だ。今宵の夢からは賑賑しさを感じられる。複雑なメロディはぼくの全身に心地よく染み渡る。手には頼もしい杖を。耳には快い音楽を。励ましを携えてぼくは歩を進める。ひたむきに。一心に。無心で足を動かす。山道は時折、ゆるやかに右へ左へ折れてぼくを楽しませる。進路があちらへこちらへ揺れるにつれ、潮の匂いが濃くなったり薄まったりする。海へ近付いていることは確実だ。
それにしても、と、ぼくは夢のなかで思案する。お母さんの言い付けを破ったぼくの目的は?ほんとうは反抗したくて、叶えられなくて、夢で発散している?いずれも違う。海で待っているのだ。
「……誰が?」
立ち止まって独り言つ。
思いのほか息が上がっていることに気付く。空腹は耐えられる範囲のものだ。でも、喉の渇きは辛いものがある。ひと口でいい。山のどこかに湧水があれば——
はっ、と目が覚める。勢いよくお布団から飛び出した。室内との温度差だろう、瞬時に冷えが走って身震いする。たっぷりの汗をかいている。魘されてはいなかった、と思う。悪夢の感触は見当たらない。けれど夜着にしている薄水色の、古い絽の襦袢が紺青となってしまうほどの汗だ。たっぷりの汗をかいてぼくは目覚めた。
四
「夢見が悪いのか」
「ここ二、三日で急激に冷え込んだせいではないだろうか」
亜双義の言葉を反芻しながらぼくは、余分に支給された毛布を口元まで引き上げる。きっと今夜は大丈夫。おかしな夢が重なっているのは、たんなる偶然でしかない。ぼくは、ぼくに、よくよく言い聞かせて目を閉じる。
夜のしじまに混ざる波の音。
揺れが少なさそうだと感じて、今宵の海上は穏やかなのだろうと予想をしてみる。数日前の、香港から経ったばかりの夜はひどい揺れに眠るどころではなかったのだ。
喉の渇きは続いている。混乱に乗じて骨付き肉なんか、くすねなければよかった。お腹が満たされた代わりに喉が飢えている。でも、と、夢のぼくは思う。
お母さんの言い付けを破ってぼくは、今宵も山を登り続ける。お母さんは海をひどく恐れていた。恐れる理由はぼくの幼い頭でも納得のいくものだった。ぼくには兄がいた。僕が産まれるより早くに亡くなったという。顔も知らぬ兄だ。好奇心が強い傾向にあり、勇敢と無謀を誤解しやすい、美しい声の持ち主。伝え聞く限りでの、ぼくの兄の特徴だ。
美しい声だと褒めて育てられた兄は、いつしか、みずからを鳥の亜種だと考えたらしい。潮の混じった海風が、どこまでもどこまでも連れていってくれる鳥の鳴き声は美しい。ならば、美しい声を持つわたくしは鳥であろう、そうして兄は山の頂から飛び降りたのだ。
正確には飛び立ったのだと、ぼくは思う。兄はみずからにも翼があると信じていたんじゃないかしら。
「あにうえ、」
夢中で呼んだのか、寝ながら呟いたのか。