「誰からも愛されるかわいいおばあちゃん」として役者で再ブレイクした75歳の主人公が、「理想のおばあちゃん役」から降りる話。
面白すぎて1日で読み切っちゃった。とても面白かった。出会えてよかった。
自分を束縛する「イエ」なるものから逃げたい一心で俳優に復帰し、オーディションを受け、稼げる「いい役」を狙っていたはずなのに、いつの間にか、あれほど逃げたくて燃えてもいいとすら思った古民家を中心に、新しいコミュニティを作っていく。集まるのは、夢みる上京娘に廃品回収のおじちゃんや、休職中のサラリーマン、会社を畳んだばかりの息子とその彼氏、痴呆症の友人…。「イエ」なるものを壊すのは難しくても、再構築してよりよい居場所にしていける。そんな希望を感じた。
中盤で主人公が自分が「いいおばあちゃん」を演じることで何に加担していたかを気づくシーンにぐっときた。社会の中で少しだけ居場所を見失ったひとたちに向けられる「どっちつかずでもいい」というメッセージが優しい。
これはマジカルでミラクルなおとぎ話だ。でも、主人公が巻き起こしたミラクルなおとぎ話を、きっと信じたくなる。信じてみたっていいじゃない。
二児を連れた母親がDV夫の家を出て、寄せ集めの仲間と家を建てる映画「サンドラの小さな家」を思い出した。サンドラの建てた家の結末と正子さんの家は異なる展開になるけれど、きっとどちらもメンバーを入れ替えながら、また新しい家を作っていくのだとおもう。
主人公の毛色はだいぶ違うけれど、元女優が現在と過去を行き来する「千年女優」も思い出した。千年女優の主人公は夢うつつを生きていたけれど、正子さんは現実に足を付けて走り回っているのが凄くすてきだった。
は~~~おもしろかった。映像化しないかな。