📙鳥図明児『虹神殿』
週末は土砂降りだったり土砂降りお天気雨だったりしたので、スコールが降る南の国を舞台にした鳥図明児『虹神殿』を久しぶりに読み返していた。死んだ大臣の息子で大学を最年少で卒業したものの古い神殿遺跡の修復にうつつを抜かしているために「バカ若様」呼ばわりされている少年サーナン・ハーシが、否応なく権力闘争に身を投じつつも神殿の主である空神の声を聞き、その沈黙の意図を推しはかろうと苦悶する話。その間に、北側の国から南の発展途上国に押し付けられるモノカルチャー経済、その結果の国際的なコーヒー価格の暴落による経済危機とそれに伴う小麦の投機、税制改革と民族資本の形成…と構造的な格差の問題が緊密に描き込まれて、40年前(1983年に単行本刊)の作品とは思えない現代性を保っている。舞台の国は名前を与えられず、何となく東南アジアかインド近辺な雰囲気を纏うが、アフリカ等も含めた南北問題的な意味における「南の国」ということで良いのではないかと思う。作中に登場する日本人・石長は服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』も連想させるし。
多分、80年代性をもっとも具現しているのがこの石長で、「マヌケだが経済合理性と絶対平和主義を掲げ、非白人を差別せず、勤勉かつ誠実に課題解決に努める」日本人像は、理想像としても今や遠い。

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多分、古本でもほとんど出回っていないので(大昔に復刊ドットコムで投票したけど結局復刊されず…)、国会図書館かどこかで読むしかないのだが、いつの間にかWikipediaに割と充実した項目が立っている…
ja.wikipedia.org/wiki/虹神殿

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