だからもし
……いや、そんなことを言っても機嫌を損ねるだけだろうな。その願いはたぶん、お互いに。
「傷はもういいの」
「まだだめらしい。お宅こそどうなんだ」
「うん、まあ、安静にとは言われたかな」
あの襲撃のあと、考えることはたくさんあった。たぶん目立ちすぎたせいで、ここは狙われている。拠点を移すか?攻勢に出るか?ぼくの身の振り方は?
山猫をこのままにしておくのか?
その気弱な願いはたぶん、お互いに持っているものだった。離れてほしい。あなたを傷つけないために。だけど、それは。
「何考えてやがるか当ててやろうか」
「いいよ別に。たぶん当たるから。でも」
「あ?」
「あなたの考えてることも、たぶんわかるよ」
「……ちっ」
生来の気弱さは、目の前の男も持ち合わせている気質のひとつだった。このままでいては互いに傷つく機会が増えるのだろう。だとしたら、離れておくのもひとつの手だ。
それでも、たぶん。
「……無理だろうなあ」
「なにが」
「だって、嫌だろ。ぼくも嫌だし」
「……そうだな」
だからもし、口にしても許されることがあるのなら。それは。
「勝つよ、ぼくら」
「ああ」
それでよかった。いつ潰えるものだとしても、この道はあなたと歩きたい。
こういうの
「まったく、キミたちときたら」
遠のく意識と痛みの向こうに、青いソフトレザーを見た気がした。“無欠”のガンマン。来てくれたのか。
「シルッカ」
「ええ」
タビットが唱える光の妖精魔法は、またたく間にきらきらと輝いて、ぼくと山猫の傷を癒した。――助かった、らしい。
「……離れろ」
まだ朦朧としているのか、山猫が残った力でぐいとぼくを引き寄せた。
「こいつに――セイに――触れるな」
「ご挨拶ね」
どくどくと早鐘を打つ心臓の音を聞きながら、この関係がいかに危うくもろいものだったかを知る。ぼくがこいつを大切にすればするだけ、そしてそれは逆もまた然りだが、それは大きな弱点となる。
「あなたたちの傷を治そうってのよ。山猫、あなた、あたしが誰かもわかってないわね」
痛みと緊張感が薄れていくにつれ、どっと疲労を感じていた。山猫は生きている。まずはそれを喜ばなけりゃ。
「あいつらは……どうなった?」
うまく発声できた気もしないが、そう問うと、パトリックは確りと頷いた。
「スウくんが大暴れでね。見るうち伸してしまった」
「……スウが?」
「あの怒りよう、キミたちにも見せたかったな」
パトリックはおかしげに肩を揺らす。山猫はついに、ぼくから手を離そうとはしなかった。
20↑/LGBTQ+/たぶんゲームのオタク/鬱病/無職/年金生活/くろいいぬがいます