▽日系社会の恥
アルゼンチンでは1976年の軍事クーデターで世界初の女性大統領だったイサベル・ペロン大統領が解任され、軍事独裁政権が成立、左派活動家らが弾圧された。死者・失踪者は政府の調査で約1万人、人権団体によると約3万人とされる。
現地日系人団体などによると、日本国籍保有者も含む日系失踪者は少なくとも17人いる。だが家族は声高に失踪を訴えることを長くためらってきた。アルゼンチンの日系社会は太平洋戦争後の移住者が多く、「受け入れてくれた」政権と問題を起こさないために「政治に首を突っ込むな」との風潮があったと関係者は語る。反体制分子として拘束されるのは日系社会の「恥」と捉える向きもあった。
南米アルゼンチンで軍事独裁政権が敷かれた1976~83年、左翼狩りを名目に活動家らへの弾圧が激化した。米国の支援を受けた軍による拉致や拷問が横行。ある日突然姿を消し、遺体すら発見されていない市民は数万人に上るとされ、中には日系人もいた。軍政の終結から今年で40年。失踪者の家族や拷問の経験者は「苦悩は終わらない」と語った。(共同通信サンパウロ支局 中川千歳)