川本 直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』を読了しました(史料と創作の関係性の扱いからみた個人的感想) 

序文を眺めただけでもただならぬものを読み始めてしまったぞ…と凄みを感じたのですが、全編を通して英語作品の邦訳本という体は徹底していて、なおかつ事実の中への虚構の織り混ぜ方が自然で作中にある空と海の青が溶け合っているという表現がまさしくとなるような作品でした。
かなり綿密な考証を行ったであろう、登場人物達の周辺描写によって説得力を持たせながら架空人物や実在人物のプライベートな部分を生き生きと描写していて、史実を元にした創作の真骨頂に思いました。

この小説自体が史料から何を見出し、物語を紡いでいくかという内容に向き合ったものとなっていますが、作中人物が発表する作品群、特に『アレクサンダー三世』二部作は歴史上の人物の既存イメージに対して自らはどういう姿勢でどう表現をしていくかという点を丁寧に追っていて良かったです。作中作品をそれぞれ実際に読みたい…

それでいて参考文献ページも創作と実在の書籍が併記されていて物語のフレーバーとなりつつも、それだけに留めずちゃんと小説作品としての参考文献としても機能していて、終始考証と創作の関係性に誠実な作品に感じられました。

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