金属同士の激突により鳴り響く特有の音がその広場に響く。
一百事務所の魔塔の下、訓練用の広場で武器を振るうのは二人の【ダブルオフセットリングスパナ】
「ぜぇりゃあ!」
一人はその両腕に備えた篭手のような工具で、もうひとりに殴りかかる。
「っ!」
一人は他のオヤカタも見慣れているであろうロッドを構え、拳の一撃を受け止める。
「まだまだ!」
篭手の司祭が黒の炎を手に纏わせて殴りつける。
重く、手を痺れさせる衝撃が立て続けに伝わる。長くは受け止めきれないと判断した杖の司祭は距離を取り、魔法を放つ。
飛来するのは闇の魔法。おそらく拘束魔法の類だろう。
それを避けて再び杖の司祭の懐へ飛び込む。
拳とロッドが、再び激しい音を打ち鳴らす。
「流石ですわね」
「ふふん!短期決戦に持ち込まないとこっちもまだ脆いからね!」
杖の司祭が押し切ろうとするも拳の力は強い。篭手の司祭は片手でロッドを握ると、空いた片手でオフセットスパナめがけて拳を振るう。
「共振術!」
直後、杖の司祭の胴に一撃……は当たらない。いつかのような気絶ではなく寸止めだ。

「……ふぅ」
息を吐いて篭手の司祭はその姿を作業着に変える。未だに魔力制御がうまく行かない身体では建姫としての姿を長時間は維持できない。おまけに最大限まで維持すれば一定期間は建姫の姿にすらなれない。
……未だに歪で不安定な姿だ
「……んふふ、日に日に強くなっておられますわね」
「何言ってるの、まだまだ身体の維持すら覚束ないのに」
オフセットスパナは微笑むが作業着姿になった建姫……一百オヤカタは大きく息を吐いた。
「それでも、制御もうまく行くようになっておりますし、以前の魔力譲渡のように一日に一度、一定時間程度ならばすぐにもっていけるかと」
「そうだといいね」
オヤカタは自身の手のひらを見つめる。
周囲のオヤカタも、建姫も、自分よりずっとずっと強い。新たな力を得て自分より遥かに強くなったものもいる。
そうなればまだ自らの力すら満足に扱えない自分が彼らと並びたつには程遠い。

フォロー

「……」
「オヤカタ様」
オフセットスパナに案ずるような声をかけられる。顔が強張っていたのだろう、ぶんぶんと顔を振ると笑顔になって言葉を返す。
「あ、うん!大丈夫大丈夫!私ももっと強くならなきゃね!みんなを守りたいし!」
「……今暫くは、ご自身のために戦っても良いと思いますけれどね」
「自分の為かぁ」
オヤカタは飲み込みきれないといった様子で返す。そういったオフセットスパナもそうだ、他人のために戦ってきた彼女が自分の為に戦うと言うのはしっくりこない。
それでも、今はそうあるべきだと思った。
「貴女様は飛躍の準備段階、建姫としていずれ十全に魔力を用いるためにも、まずは貴女様自身を案じて戦うというのも、今は有効な手段と存じますわ」
「……そう、なのかな」

「ええ、きっと」
そっとオフセットスパナはオヤカタの頬に触れる。髪の毛と肌の間に閉じこもった熱が暖かい。
そのまま撫でてやるとオヤカタは気持ちよさそうに目を細めた。
それでいい、自身を肯定する心と報酬を与えて、彼女がそれを重視するようになればいい。
どこか犬をしつけするようにも思えて、オフセットスパナはくすくすと笑った。

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