『プロミシング・ヤング・ウーマン』すごい良かった。
何より主人公が最初から死んでるしそれを隠しもしない美術が最高に良い。カサンドラ(カサンドラ!)の時間は事件を境にズルズルと停滞し、やがて止まり、映画の開始時点で時はもう流れていない。生ける屍が、彼女を愛する人々から寄せられる復活への期待を無視して、死者のままなすべきことをなしてようやく終わる物語だ。この映画を観たがる多くの“被害者”たちの死んでしまいたい願望を代わりにやり遂げる優しさのように私は感じた。時々死者に戻ってしまって途方にくれるカサンドラが、並んだ車の運転手のフロントガラスに罅をいれたあと路上に立ち尽くすショットの美しさに泣いた。
もう一人、ほぼ死んでるのが弁護士(花の枯れ方が美しい)、最後の最後に主犯に手錠をかけるのが女性というのも非常によい。そしてバリエーション豊かなようでいて「またおまえか」と言いたくなるクソ野郎共の典型っぷりもとても巧み。
中心にあるのがニーナの不在と思わせておいて、じつはニーナのことが語られないのは当前で、焦点はそこではなかったのだとわかる終盤の展開はクレバーすぎて爽快な笑いが漏れた。これは生まれ続けるこれからの“被害者”の、死ぬ寸前の悲鳴を聞かせるための物語だ。ありがとう!