バス・ドゥヴォス『ゴースト・トロピック』2回目をル・シネマで。以下ネタバレ。
(長い感想はthreadsに書いていたのだがこっちのほうが枠大きいのでこちらで)
次から次へと「とり残される (left alone)」映画。レフト・アローンてどこかで聞いたような略
主人公は終着駅にとり残され、バスの中でもとり残され、彼女のコーヒーカップは会議室に、ティーカップはドラッグストアに、犬は路上に残される。彼女がやっと車に乗れたと思ったら今度は娘に「とり残される」。娘はボーイフレンドに取り残され、ラストは砂浜で友達からとり残された娘の強い横顔のカットで〆。
最初と最後の、部屋の中をタイムラプスで撮影したカットも、住人に「とり残された」部屋だし。
「そこにはもういない誰か・何か」の痕跡を、16ミリの画像とエモい劇伴(このギターがまたえげつない)で抉り込んでくるそのパワーはすごい。主人公が車に拾われたシーンの次の、ヘッドライトの群れがホタルのように移ろうカットをはじめ、不在の部屋で「しーっ」ってやる若者、路上に佇む犬、ガソリンスタンドのライトの下に立つ主人公、印象的なカットがこれでもかと。
個人的には『Here』の方が好きだけど、残り2作も早く公開してほしい。絶対この監督はただもんじゃないと思う。
今日観た、チャン・リュル『福岡』について(ネタバレ含)。
延々と続く、幽霊が見ているような手持ちキャメラ(カットを切らない長回しがそれを助長)。
古本屋に戻ってくるエンディングが、それこそが現実なのか、それともそれまでが現実なのか分からなくなるのが見事。
男2女1の三角形だけど、クォン・ヘヒョとユン・ジェムンのおっさんコンビは若いパク・ソダムに手を出すわけでもなく、ひたすら「過去の女の思い出」に苦しむ。この2人からミソジニー臭を感じないのも嬉しい。
この2人を手玉に取りながら、3ヶ国語の間を、男たちの間を、福岡の街を、そして現実と幻想の間を静かに泳いでいるパク・ソダムが素晴らしい。
そしてこのロウソクのショットよ。3人が文字通り「息を合わせる」瞬間。
自分が、最新作『柳川』よりこっちのほうが好きなのは、老いの現実と忘れられない過去をこんなふうに引きずったまま生きていけたらと思うからかもしれない。
【2022年回顧:読書】
今年も回顧ツイを。こっちに下書きして、しばらくしたらあちらに上げる。
今年読んだ本、俺の問答無用な2トップは、ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題』(明石書店)と唐作桂子『出会う日』(左右社)です。前者でいろいろ考えたし、後者では何度も反芻した。
読書体験の両サイドな形。
人生丸ゴト握ッテ回ス 裸足で行かざるを得ない