村瀬大智『霧の淵』 at ユーロスペース
Daichi Murase ‘Beyond the Fog’
なかなか良かったぞ。偏在する霧と余白。
山の中だが、動物や鳥の鳴き声よりも聞こえてくるのは風と硝子戸。
ゆっくりと引いていくカメラの中に取り残されるイヒカのショット(2回)が素晴らしかった。
イヒカ(なんて奇妙な名前の主人公だ)はよく寝るなあと思いながら見ていたら、徐々に既視感が。
村瀬監督と大学同期のはずの、瀬浪歌央『雨の方舟』だ。あれも、「森の中でだんだん人がいなくなる中で、"余所者"の女性が残される」。
以下ネタバレ付感想。
最初は林業や旅館客や地元の人に子供たち、あんだけスクリーンに人がいたのに、どんどん減っていって最後はイヒカと咲だけに。咲は『雨の方舟』の塔子と同じく、外から来た女性で、娘のイヒカも誰とも交わろうとしない点では異邦人。イヒカも塔子も、体を横たえることで物語を駆動してる感あった。あと、地元の方が登場してセミドキュメンタリーなシーンが混在しているところも2作に共通。冒頭の言葉のきれいな女性が、朝日館の本物の女将だとは驚きだし、宴会のシーンもふくめ、素人の映し方がとても自然。
自分の意思で家に留まることを選ぶ『雨の方舟』の塔子と、「どないしょ」とつぶやき→
ながら、最後は涙を拭いて台所に立つ咲(水川あさみの旅館の女将の割烹着姿がガチですごい)。
印象に残っているカット。
良治と関係のある女性の後ろ姿、咲の姿を映さずに良治が離婚話をするシーン。椅子で眠っているイヒカ。別棟からの宴会のカット。まるで演出みたいに降りてくる霧。
主演の三宅朱莉は、監督から歩く「テンポ」を注意されたそうだけど、シゲの後をつけたり、路上で振り向いたり、母をおいて山中の隠れ家に向かうイヒカの歩き方は、確かにややゆっくりで、重たいというより心が宙に浮かんでいるような歩き方だった。それも霧のせいなのかも。