シロップをたっぷり吸ったリンゴはとてもジューシーで、でもシャキシャキとした食感も残っていて、甘さより食感と風味を味わうタイプのアップルパイだった。
上に敷き詰められたクランブルにはナッツも混じっているようで、ザクザク感と香ばしさが食べていて心地いい。
それを紅茶で流すとアップルティーのように香りが広がって、幸福感が満ちてくる。
「おいしいですね、サザントスさん…!」
「ああ」
サザントスさんはもう食べ終わっていた。ゆったりとカップを傾ける様子は、アップルパイを食べる前よりもどこか和らいで見える。
ミトスさん曰く、朝方のサザントスさんは何か悩んでいたらしいけれど、それが解決できてたらいいなと思う。でも、もしまだ解決できていないなら……
「サザントスさん」
「なんだ」
「僕、もっと頑張ります。あなたを支えられるように――」
「1000年早い」
「せ…!?」
100どころの騒ぎじゃなかった。
「そのようなことを宣う前に甘えを捨てろ。剣の腕を磨き、観察力、洞察力を鍛えろ。決断を迷うな。この世を真に守りたいと願うのならな」
「う……」
容赦ない指摘の嵐にちょっとだけ気勢が削がれる。でもこれぐらいで凹んでなんかいられな――
その優しさには胸が温かくなったし、サザントスさんとお茶できるかもと思うと心が弾んだし、実際に今相伴に与れて、とても嬉しい。今日はいい日だなぁ……。
「その顔を仕舞わねば部屋から追い出すぞ」
「しっ、失礼しました! ありがたくいただきます」
自分の分の紅茶を注ぎ、サザントスさんの向かいの席へ。
書き損じなのか既に用済みとなっているのか、皿の代わりに使えと紙を渡された。
ずっしりとしたアップルパイを手に取ると、サザントスさんは既に食べ始めていた。表情からは味の良し悪しが窺えないけれど、もくもくと食べ進めているところを見るに、悪くないんだろうなと思う。
いや、彼女がわざわざ買い求めるくらいなんだ、おいしいに違いない。
「いただきます」
思い切りかぶりついたアップルパイから、クランブルとパイ生地がぱらぱら落ちる。一応手で受けてはいるけれど、見た目より少し崩れやすいみたいだ。
潰さないように気を付けながら、もう一口。
“それ”が顔を覗かせた瞬間、甘い香りが広がった。
袋の底に敷かれていた台紙を皿代わりにテーブルへと置かれ、飴色の果肉がよく見える。
「“選ばれし者”が何故私にアップルパイを? 否、そもそも本当にあの者から預かったのか?」
「間違いなく彼女からの贈り物ですよ。なんでも、今朝あなたを見かけた時の表情が気になったとかで、これで一休みしてほしいと言っていました」
「今朝…? 疲労はしていなかった筈だが」
「何か思い詰めているように見えた、だそうですよ」
「………よく見ている。まあ良い、ちょうど一息入れようと思っていたところだ」
その言葉通り、テーブルの上にはティーセットが置かれている。
流れるように紅茶を注ぎ、ブランデーを数滴垂らしたところで、サザントスさんは手を止めないまま何気なく尋ねてきた。
「お前も同席するか」
「え…よろしいので?」
「そのために2ピース入っているのだろう? 私が2つ平らげても良いが、あの者のことだ。お前の分として入れてあるのだろう」
実は、預かった時に「ロンドの分も入れてあるから、もしサザントスさんが忙しくて一緒に食べられないようなら、ロンドが1ピース持って行ってね」と言われていた。
コツコツと響く音を聞きながら、普段はあまり通ることのない廊下を進む。
抱える紙袋はまだほんのり温かく、早く届けたい気持ちが歩調を速めていた。
角を曲がり辿り着いた扉の前で、ノックをしようと拳を作り……ふと思い直す。袋の中身は無事かな?
………うん、よし。大丈夫そうだ。
そうして袋を抱え直し、軽いノックを2度。誰何の声が飛ぶ前に口を開く。
「サザントスさん、ロンドです。あなた宛の荷を預かってきました」
『入れ』
失礼します、と入室すると、暖炉の火が小気味良い音を立てて爆ぜた。
サザントスさんは白銀の髪を暖炉の火で薄赤く染めながら、その暖炉の前に立っていた。
「誰からの荷だ?」
「ミト――“選ばれし者”です。急ぎあなたに渡したいと」
「………。」
表情は変わらないまま、けれど纏う空気を静かに引き締めて、サザントスさんが紙袋を受け取る。
ガサ、と袋の口を開け、中を確認し――…瞬いた目が僅かに丸くなった。
「ロンド」
「はい」
「何をニヤけている」
「えっ、いえ、ニヤけてなんか」
どんな反応をするかな、とは思っていたけど、ニヤけてはいない……! はず。
サザントスさんはと言うと、呆れたように息を吐きながら袋の中身を取り出していた。
ミトスはふさふさふわふわの猫さんに出会うことがあまりないようで、ふあふあ猫になってしまったszを見付けた際に「ふわふわーーー…!!」とハートブチ抜かれました。
抱っこ許可下りてからはゴキゲンに抱っこしてにこにこしてます。
必Lv.10に覚醒石不要になったのは良いね!
Lv.20まで上限解放と聞いて、覚醒石1つじゃ最大Lv化できなくなるんかと不安だったが、そうではないようで安心。
しかし必覚醒が複数または段階解放可能になったら、やっぱその分だけ石が必要になるんだろうな…
#オクトラ大陸の覇者
おくとぱすとらべらー大陸の覇者でにじそうさくかきかきするタイプの陰キャ。
メインジャンル
サザントス×オリ主
サブジャンル
聖火神×オリ主