空気が揺れる。
永く静寂に包まれていたこの地を、あの者が駆けていったのは記憶に新しい。
絶望に沈みそうだったところを保護したのも、大陸を見て回ることを勧めたのも――もう十分だと思ったら、再びこの地に戻るよう告げたのも。
「聖火神、ただいま戻りました」
「――おかえり、“選ばれし者”よ」
【ここから始まる二人の物語:140字版】
(テキストにするとこうなる)
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空気が揺れる。
数百年静寂に包まれていたこの地を、あの者が駆けていったのは未だ記憶に新しい。
絶望に沈みそうだったところを保護したのも、大陸を見て回ることを勧めたのも――もう十分だと思ったら、再びこの地に戻るよう告げたのも。
「“選ばれし者”よ」
「聖火神…!」
「もう、良いのか」
「はい」
出迎えに驚いていたらしい瞳が穏やかに細められる。
ここを出る時に湛えられていた絶望は潜められ、温かな光が揺れている。彼女本来の瞳に戻ったようで、安堵が静かに胸を満たした。
「大陸にもう“私”は必要ありません」
「あの聖火騎士は惜しんでいたようだが」
「彼は優しいですし、別れはいつだって寂しいですから。でも…会えなくても同じ世界にいます。きっといつか、どこかで交差する時が来るでしょう。その時まで、私はここからオルステラを見守りたい。……許されるなら、あなたと共に」
「…こちらに」
一歩進み出た彼女の手を取り、その右手をそっと包む。
「歓迎しよう。……おかえり、ミトス」
「ただいま戻りました、聖火神」
【ここから始まる二人の物語:140字に収まらなかった版】