ポップスターになった温泉マーク、オートチューン実況を終えリムジンに乗り込もうとした彼は背中を引っ張られたような気がして振り返った。小さな手がコートの裾を掴んでいる。「なんだ?サインかい?」苦笑しながらしゃがみ込んだ温泉マークの目線は少年が差し出した二枚の紙きれに奪われる。「努力 未来」「努力 前進」そしてそれぞれに印刷された栗と蝶の画像。「君、どうして、これを……そんな...消したはずだが…....。」「温泉マークさん...もうご用意はできていますが...」気づくと運転手がそばに立っていた。少年の姿はどこにもない。「ああ、すまない...今日はもう、帰ってくれないか...自分で運転したい気分なんだチュン...」「いえ、あの、それは---」運転手の制止を無視して温泉マークは車を発進させた。「栗と...蝶...栗...努力...未来...前進...栗と......」ハンドルと掌の間で二枚の紙切れは汗で濡れ崩れていく。クラクションを無視してもりこぎの黄色いリムジンは速度を上げていく。まるで問いから逃げるように。

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