井辻朱美の第二歌集『水族』
解説は荒俣宏。歌人にしてアイルランド文学の訳者片山廣子と較べるのはさすが荒俣宏
タイトル通り、魚を歌う作品が多い一方、エッセイが掲載されていてなかでも「水族あるいはOtherness」は遂に文庫化されるアイヴァス『もうひとつの街』を連想せずにはいられない秀抜の作

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個人的な抜粋 

藍ふかき都市の夕空クレーンはいつか死にたる恐竜となる
空色の眼を持てる生き物の髪かぜとなり沼に映れる
叙事詩(エピック)のふかき黄昏藁色の森にて会いたる隻眼の神
Othernessという言葉はしみいる雨のなか鮫は高いところを泳ぎいるに
竜殺しのあまたの神話を思いつつエイのはばたく水槽すぎぬ
硝子の箱むすうの異界を閉じこめて水族はついにわれらに会わぬ
汚れつつかがやく半月 体液を爬虫類らは澄ませてねむる
死ねばゆく常若の国(ティル・ナ・ヌオーグ)とぞ波さわぐかぎりなき落暉へ立ちていたりき
十一月の夜のいきもの雨という優しきエイが街をつつめる
象徴の暗き森より流れ出てわれらに出会う青の驚愕
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エッセイで触れられている通り、異類としての魚族を〈他なるもの〉として、短歌に結晶させるのが井辻作品の特徴
そして、同時に「鮫はわたしの無意識のなかに住む…そのなかには幾多の忘れられたおそろしい衝動と外傷(トラウマ)がある」と述べているように、象徴を媒介にして孤絶感を詩的に表現し続ける透徹した感覚が心地よい
しかし、鮫と言ったらアイヴァス。ボヘミアにはかつてケルトのひとびとが住んでいた時代もあったというから不思議な縁を感じる

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