夢(虐殺と戦争の描写)
私と父と母と見知らぬ外国人夫婦が一つのボックスカーに乗って出かけていた。行き先はたぶん退屈な地元の商業施設といったところだった。道がひどく渋滞していることに気づいて、運転していた夫婦の片割れが眉間にしわを寄せた。車間距離を詰めるようにしてビルの立ち並ぶ都市に入ると、そこでとうとう動けなくなった。祭りか何か人の集団が居並んでいるところに突き当たってしまったのだった。後部座席の窓に顔をくっつけるようにして前方を見ると、地面に黒い巻き毛の頭と褐色の肌をした子どもの頭が見えたが、その先が何にもつながっていないことに気づいて目を疑った。全身が凍りついて、同時に力が抜けた。よく見るとあたりは血だらけだった。斬首された人々が折り重なって倒れていた。片膝立ちになったまま事切れている首のない死体に、サイズの合わない首がちょこんと乗せられていた。周囲の人影が放つ気配から察するにそれはそういうユーモアらしかった。とんでもないことが起こった、起きてはならないことが起こってしまった、とようやく察して、私たちは即座にUターンした。反対車線に入る時、その集団にとって敵か味方かわからない隊列とすれ違い、肝が冷えた。帰る車中にスマホでSNSを見たが大混乱で状況が掴めなかった。
続き
台所の陰に頭を抱えてひざまずくと一拍遅れて熱波が来た。熱波を浴びながらここで死ぬのだと思い、モシカを書ききれなかった、小説家になれなかった、とまっさきに思った。しかしほどなくして熱波は収まった。みんながあちこちから這い出てきた。頭髪は焦げて固まり、あちこちに火傷をしていたが死んではいなかった。そのあともしばらくして余波のようなものがあった、それは列になって走る長い木の杖のようなもので、足の裏をひどく突き刺したと思ったがそのような傷はなかった。呆然としたままマンションの下に降りると、小さな炊き出しのトラックが来ていた。長机の前にパイプ椅子が3脚置いてあり、眼鏡をかけた白衣の男が座っていた。話しかけると「落ちたものが何かは知っている?」と注意深く聞き、うなずくと「どんな影響があるかはわからない」と言った。「2、3日で死ぬかも知れないし、数カ月後か数年後かもしれないってことですね」と訊くと「長く生きるかもしれない。わからない」と答えた。男の顔は左半分が緑色にくすんでいた。私の片腕も肌が緑色がかっていた。落とした者たちの間では、あれは「最高傑作」という名で呼ばれているのだ、と誰かが教えてくれた。