陽色の口づけ
「ただいまー、って言っても誰もいないんだけど」
「お邪魔します。……今なんて言った?」
あのあとロックマンが家まで送ると言い張るので、一緒にいられるのが嬉しくてお願いしてしまった。手を繋ぐかという提案には勘弁してくださいと答えたけれど。到着してロックマンが帰ろうとしたところで急にみぞれが降ってきた。予報では一日晴れだったので傘を持っていなかったロックマンを「そのうち止むわよ。買った本でも読んでたら?」と引きとめて腕を掴みつつ玄関の扉を開けると、何故か奴が固まった。
「ご両親はすぐ戻ってくるんだよね?」
「明日まで出張中よ」
ロックマンは何やら頭を抱えていたが、私がくしゅんとくしゃみをすると慌てて「早く温まって」と言われた。出かける前に暖房を消したばかりでまだ暖かいLDKに移動して暖房とこたつのスイッチをつけ、アイスを冷凍庫に放り込む。コートをかけてロックマンにこたつをすすめた。楕円形のこたつの少し離れた位置に座って他愛もない話をしていると、ぬくぬくと温まってきた。
「ヘル、アイス食べたら?」
「無理って言ったでしょ」
楽しげな声の方を睨んだらいつのまにかすぐ隣にいて、おひさまの香りと共に唇が重なった。
「今みたいな味がするのかな」
馬鹿。これじゃ雪色じゃなくて陽色の口づけだ。
#1T67SS