「さてはあんた、私のことカイロ代わりにしてるわね⁉」
目が覚めると腕の中にいたヘルが夢じゃないのだと確かめるようにして抱きしめるのはもう日課になっていた。何度抱きしめても実感がわかなくて。彼女も僕のことが好きだなんて、自分に都合のいい夢なんじゃないかと毎朝のように思ってしまうから。それなのにヘルから返って来たのはそんな一言だった。
「君ってどうしていつも残念なんだろうね」
残念ってなんだとわかりやすく眉を吊り上げる彼女に、こちらもわかりやすくため息を吐いてみせる。どれだけ態度で伝えても、どれだけ愛の言葉を尽くしても、鈍感な彼女には中々伝わらない
大人になればなるほど言葉は回りくどくなり、態度で感じ取って欲しいだなんて思ってしまうけれど、彼女はいつだって真逆で、真っ直ぐだ。そういうところが好きなのだから仕方がないけどと心の中で苦笑する
「なに笑ってんのよ!」
「別に。ただ、僕の恋人は今日も可愛いなと思ってね」
途端に碧が左右に大きく揺れて、頬も耳もかぁぁっと赤く染まっていく。その全てが僕のことを好きだと伝えてくるようで。あぁ、もう本当にどうしてくれようかな
「寒いからもう少しこのままでいてよ。カイロ代わりに、ね」
今はそれでいいかと笑いながら、彼女をそっと抱きしめるのだった
#1T67SS