ドキドキ、ドキドキ。隣の席の彼女の身体からふわりと甘いチョコレートの香りが漂う。あぁ、明日はバレンタインか。フェルティーナと友チョコを作るらしい、とサタナース経由で聞いていた事をぼんやりと思い出す。心底嫌われて居るであろう彼女からは、バレンタインにチョコレートを貰えるなんて一生ないだろう。僕にとってはバレンタインデーは、気持ちを伝えてくれる女の子達のお返しを考える日だった。
中学から高校に上がり、バレンタインに貰えるチョコレートの価格も上がってきた所で、ゼノンのように事前に受け取らない旨を事前に告げれば、その日は他の日と同じく普通の一日になったのだが。そうなると一つもチョコレートを貰えない僕にも友チョコと言う形でヘルから貰えるようになり、思わぬ形で彼女から貰えるそれにらしくもなく舞い上がった。だから、それで充分だと思っていたんだ。
珍しくソワソワしたヘルに、いつもと違う物を感じる。あぁ誰かに気持ちを伝えるのだろうか。こんなに近くにいるのに、彼女との距離はとても遠く感じる。じくじくと胸を占めるこの気持ちは甘いだけではない。
相手が誰かなんて考えるだけでも無駄な事を考えて、図書室へと足を向けても心ここにあらず。でも碧眼がこちらを見た気がして。
自惚れが実感に変わるまであと少し。
#1T67SS