隣の席の、誰かを彷彿とさせるような茶髪の女の子。それがヘルの第一印象だった。
無意識に吹っ掛けていた手遊びを皮切りに、僕らの関係は言うなれば腐れ縁のようなものになっていった。
女生徒達が恋愛に身を焦がす中、学年が上がってもヘルはヘルで、時間があれば図書館に通い本を読み、できない魔法があれば訓練室で魔法の特訓をしていた。彼女が見つめるのは、一位と勝利という文字だけだ。
そんなヘルのことを見つめる視線に気付くと、物好きだなと思いながら決まって窓越しに空を見上げた。ただそこに美しくあるだけで、あの空は誰のものでもない。誰のものにもならないと思うと何故かほっとしている自分がいたのだ。
卒業パーティーが近づくにつれて増えてきたヘルを呼び出す手紙に、彼女は小首を傾げていた。自分がパートナーに誘われているだなんて微塵も思っていないのだろう。
窓越しに降り注ぐ金色の光が彼女の美しい空色に影を落とすのを見ながら、遠いなと思う。この教室で一番近くにいるはずなのに、掴めないあの空のように。いや、掴もうとするのはおかしいだろう。僕に好きな人などいないのだから。
「何よ」
じとりと碧い瞳が嫌そうに僕を捉える。
「別に」
僕たちの距離が縮まることはないだろう。これからもずっと。それでいい。それがいいんだ。
#1T67SS