あとは以下のやり取りにもニヤリとした。
書物に、物語に、一度でも夢中になった経験があるなら思わず微笑んでしまう言葉ではないだろうか。
"(レイドリーがネペンテスに)信じがたいという口調で言う。「そんなに夢中になっているっていうのかい? 何千年も前に塵に還った相手なのに」
「好きになる対象は選べないもの」"
(マキリップ〈茨文字の魔法〉(2009) 原島文世訳 p.82-83 創元推理文庫)
そう、好きで、読むことによって会いたくて、だから書を手に取って開く。
ページから眼で文字をひとつひとつ拾って飲みこみ、噛み砕き、頭の中である一幅の画を織り上げているあいだ……実際の身体の周囲にある音も、色も、暑さも寒さすらも消え失せる瞬間が確かに訪れる。
私の場合は電車も乗り過ごす。
それを称して「本には魔力が宿る」と比喩されるのだが、今回ネペンテスが捕らえられた魔力というのは、単なる比喩とは種類を異にする特定の魔法だった。
書記組以外のキャラクターにも魅力が多く、若き気弱そうな女王テッサラと、その側近の魔術師ヴィヴェイの描写なんかも良かったな。