水辺から離れた山道で、大樹の根元にうずくまっていた瀕死のカモ。
酷い怪我のせいで命はすでに失われようとしていた。たくさんの血が流され、小さな黒い瞳が徐々に乾き、瞼は永劫に閉じられようとしていた。
このおはなしの中だと自分には少しだけ力があり、カモの傷を癒すことはできたけれど、どうやら延命を行うには遅すぎたようだった。さらに、死んでしまったものの蘇生を試みるのは禁じられている。
カモにいなくなってほしくないと思った。
そこで完全に臓器や精神の活動が停止する前に、粘土のブローチに変容させた。
鼓動の音は消え、呼吸も感じられなくなるけれど、カモの命と存在そのものは失われず固定された。
ブローチになってもその羽毛のツヤは、透明なニスのきらめきとして受け継がれ、粘土で象られた輪郭は怪我をしていた状態よりも幾分かふっくらとして、細い首はうなだれることなく、しゃんと芯をもって頭が前の方を向いている。
首の白い輪には忠実さが宿っていた。黄色いくちばしには、誇りが宿っていた。
これを身に着けて色々な場所へ赴くほど、カモは多くの旅をすることになる。
空想おわり