この北半球にいて、南十字星(Southern Cross)を拝める場所というのはさほど多くない。たとえば沖縄、八重山諸島の方まで下らなければ、大抵は地平線の向こうに隠れてしまっている。
けれど坂出にはとある「南十字星」が存在していて、ひっそりと人間を招いているのだった。
喫茶店。
店名はコーヒーラウンジ サザンクロス。
暗くなると赤く発行する看板の文字に、ガラスケースの中の食品サンプル、レンガ風の細めの階段……ダートコーヒーのマーク。屋根付きの商店街にあってその店舗部分は2階になる。
何とも言えないフォルムの椅子には印象に残る趣がある。海や畑や宇宙から疲れて帰って来た人を、そっと受け入れてくれるような形。ほとんど黒に近い深緑色も目を優しく癒してくれる。
椅子は硬そうな感じもあるけれど、座ってみると硬くない。
クリームソーダはアイスが山盛りだった。
"「よろしゅうございます。南十字(サウザンクロス)へ着きますのは、次の第三時ころになります。」車掌は紙をジョバンニに渡して向うへ行きました。
カムパネルラは、その紙切れが何だったか待ち兼ねたというように急いでのぞきこみました。"
……宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫より
https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/456_15050.html