恒例の建築見学
網走市立郷土博物館の建物が素敵だった~
設計を手掛けたのは田上義也。
彼はかつて、旧帝国ホテル中央玄関も手掛けたフランク・ロイド・ライトに師事し、その建築事務所で働いていた。
この網走市郷土博物館(前北見郷土館)にも影響がみられ、国内に現存するライトの建築を見学してから赴いたのでさらに面白かった。
幾何学的な意匠は場合によって単調になってしまう運命を背負っているけれど、彼らの作品からは視覚的な退屈を感じない。
また内部では落ち着いて過ごしやすい。
このあたりは鑑賞者・訪問者の好みにもよるので、私は同系統の建物が好きなのだと思う。
いつも雰囲気が気分に合う。
線路を渡った先で右折し、坂道をのぼっていくと、アーチ状の建物正面の背後に赤いドームが見える。
立つ位置を変えると灰青色やクリーム色の柱部分がわずかにきらきら光るのは、正方形のタイルを思わせる素材がそれらの表面を覆っているからかもしれない。
館内を探索していて出会った螺旋階段の周辺は建物が持つ良さの「極致」というか……中心部にあるそれに各要素が集約されるようで、一般人は上へあがれないのに鎖を引き千切って駆け上りたくなった。
階段を支える部分、そのぬるっとなめらかな曲線は周囲の造形から際立っている。
能取岬(のとろみさき)灯台。
近代遺産の大きな魅力は、それ自身の「職務」と「外観」がもうガッチリ結びついていて不可分なところ……だと思っている。
個人邸宅とはまた違った魅力。家よりも限定して、特定の目的のために働くものとしての構造がそう感じさせる。
特に灯台は立地も相まって、なんというか背中に声を掛けるのをためらってしまうような佇まい。
目立つしましまの柄の服を着ている。
主には海を渡る人々のための指標であるはずが、陸の側から見ても、そこにいてくれると安心する存在である。
大正6年に建てられた能取岬灯台には、昭和23年の頃までは宿舎に灯台守さんがいた。
面しているオホーツク海が流氷により閉ざされ、船舶が航行困難となる時期は、おやすみを取っていたらしい。とても寒そうだ。やがて無人化し、灯台はひとりになった。
後で向かった近隣のオホーツク流氷館では流氷が立てる音の録音を聞いたのだが、押し寄せる流氷がぶつかり合うと、何かのうめき声のように聞こえる。低音の唸り。
市川春子の漫画「宝石の国」の世界で、重なり合った氷のきしむ音が声に聞こえる、という描写を読んでいたのを思い出した。本当にそうらしい。