「僕は今、どうしてトランクと座席がつながっているタイプの車を借りてしまったんだろうと後悔しています」
「そりゃあトランクを広く使えると思ったからだろう?」
「それはそうですけれど、それを荷物に言われると余計に腹が立つんですよね」
「甘んじて受け入れたまえ。痛っ、坂上君、またぶつけたぞ」
「我慢してください」
「せめて荷物固定用のベルトか何か無いのかい」
「そこまで手をかけるつもりは無かったので」
「これじゃあ引っ越しの荷物の方がまだ扱いがいいじゃないか。僕の身体に傷が付いたらどうするんだい」
「もう付けましたよ」
「そうだね。だから君は重罪人だ」
「そうですけれど」
「開き直るなよ」
「あれだけ傷をつけてまだ生きてる風間さんが悪いんです」
「そこはまだ僕が生きている事に喜び打ち震え感激するのが筋ってもんだよ」
「何で生きてるんですか」
「僕だからね」
トランクに詰められた分際で「坂上君、君は随分運転が荒いな。もっとトランクにいる僕の事も考えたまえ。シートベルトすら無いんだぞ」と文句を言う風間望
2
「君は真正の馬鹿なのかい? そんな訳がないじゃないか。誰がこんな東北の山中で車の窓なんか割るっていうんだ。割れたんだよ、突然ね。誰かが外からバンバン叩いていたから、多分そのせいだろう」
「強盗ですか?」
「こんな東北の山中にかい?」
「今無事なんですか?」
「殺す」
「はい?」
「殺してやる」
「風間さん?」
「何だい?」
「今僕に向かって殺害予告しました?」
「しないよ。されたいのかい?」
「されたくはないですね」
「殺す」
「そこに誰かいるんですか?」
「いないよ。いや……ああ、うーん? いるのかな?」
「どういう事です?」
「さっきから女性の幻影がちらちら見えている気がするんだよ。多分気のせいだろうね」
「多分気のせいじゃないので逃げた方がいいですよ」
1
「具体的にどこなんですか?」
「分かったら苦労しないよ」
「そのせいでこっちが苦労しそうなんですよ」
「君の苦労なんか知ったこっちゃないよ」
「今何時だと思ってるんですか」
「何時なんだい?」
「午前三時ですよ」
「ふうん。二時くらいかと思っていたけれど。関東と東北にはそんなに時差があるんだね」
「何でそんなところにいるんですか?」
「いやあ、ヒッチハイクでここまで来たんだけれど、急に運転手が車を置いて逃げていってね。僕は山の中で置き去りって訳さ」
「逃げ……何かしたんですか?」
「何もしやしないよ。強いて言うなら、そうだな、僕のとっておきの怪談を披露していたよ」
「話が苦痛で逃げたんじゃないですか?」
「車を置いてかい?」
「それもそうですね。今は車の中なんですか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「どっちなんですか」
「窓が割れていてね」
「はい?」
「正確にはさっき割れた」
「割ったんですか?」
風間から「今秋田の……いや、岩手かな? 山の中にいるんだけれど、坂上君、車を出してくれたまえ」と電話が来て心からの「はあ!?」が出る坂上君(千葉)
風間のために自動車免許を取った坂上君 なお風間には「君も男なんだからさ、ATじゃなくてMTくらいバシッと取りなよ」と文句を言われる
起き抜けのきゅうり