センシティブな則清とか加則加とか
『こういった場に参加している俺が言うのも妙なものだが』
と前置きをして日光は話しはじめた。
『今生は人として生きているんだ。刀剣男士としての記憶はあるが、生き方まで記憶の通りにしなければいけない法はない』
俺も、と言葉は続く。
『お頭ともう一度出会ったとして、また左腕になりたいかと言われたら返答に詰まる』
「——意外。あんたは山鳥毛に会いたくてこkにいるんだと思ってた」
『きっかけはそうだ。今も会えたらとは思っている。だが、会ってどうするかは俺がひとりで決めることではないだろう』
「そう、かも」
ふと、宗三のことを思い出した。同じ本丸の則宗に会いたいと意気込む清光に宗三が言おうとしたのは、今の日光と同じようなことだったのかもしれない。
「話聞いてくれてありがと。気が楽になった」
『礼には及ばん』
こういうところは変わらないな、と笑って清光は通話を切り上げた。
携帯端末を手に取り、今日聞き出したばかりの番号を呼び出す。少しだけ迷ってから通話ボタンを押した。
センシティブな則清とか加則加とか
『御前だったか』
日光がしたのは質問ではなく確認だった。ヘッドセットマイクの位置を調整し、清光は頷いた。
「そうだった。何も覚えてないみたいだったけど」
ふむ、と日光は頷いた。
『お前の本丸にいた御前だったかはわかったのか?』
清光は答えに詰まった。
『加州?』
「……わかんなかった」
そうか、と呟くような声が返る。
わかると思っていたのだ。少なくとも同じ本丸にいたら絶対にわかるはずだ、と。
だが実際は、同じ本丸にはいなかったという断言すらできないありさまだった。わからないのだ、本当に。
それでももう後戻りはできない。清光はあの則宗を抱いてしまったし、あの少し臆病そうなかれにすっかり心を奪われてしまった。この先清光と同じ本丸にいた則宗に出会えたとしても、もうかれの手を取ることはきっとできない。
「俺、すっごく軽率な真似しちゃったのかも」
項垂れると日光が呼気だけで笑う気配が伝わってきた。
刀剣男士の日光一文字なら、きっとこういう場面で笑ったりはしない。「そうだな」とかなんとか、清光の言葉をすっぱりと肯定していたことだろう。
『応じたのなら、軽率なのは御前も同じだ』
「そう、かなあ」
センシティブな則清とか加則加とか
最終的に則宗はイきっぱなしになってしまい、泣いて許しを乞うてようやく清光の満足を引き出すことができたのだった。
すごかった。
そして、清光の執着もまたすさまじかった。むしろこちらが本題だとばかりに清光は則宗を質問責めにした。
名前は? 住んでいるところは。誰か決まった相手はいるのか。恋人は? セックスを定期的にする相手はいる? 仕事は何をしてて休みはいつで、どういうサイクルで生活をしているのか、とにかくなんでも知りたがった。
住まいを見てみたいと言い張り家までついてきた清光だったが、自身のことはあまり語らなかった。言いたくないから、ではない。則宗が質問する余地がないほどに、清光が質問を投げ続けてきたからだ。
遊びや半端な気持ちでないことは、恋愛もセックスもバーチャルの経験しかない則宗にもわかった。骨身に染みるまでわからされた、と言う方が正確かもしれない。
何もかもが変わってしまった。
則宗は茫然としたまま、ベッドサイドに置いたVRゴーグルを見つめた。
手に取る気には、もうなれない。
だって本物を知ってしまったから。
ぼんやりと遠かった面影を再現したあのアバターはきっと、本物の清光には叶わない。
「どうしよう……」
センシティブな則清とか加則加とか
「それじゃ、また連絡するから」
と言って清光は手を振り去っていった。
則宗は自宅の玄関ドアに縋ったままその背を見送り、まだ熱を持ったままの粘膜や皮膚のあちこち、それから重くてだるい腰をさすりながら鍵を開けて家に入った。
まさか、だった。
いや、期待はあった。あたたかい場所と言われ連れて行かれたのはちょっとこなれた感じのシティホテルだったし、シャワーを浴びておいでと微笑む顔も余裕たっぷりだった。ぷるぷる震えながらバスローブにくるまってベッドに近づいた則宗を見る目は完全に捕食者のそれだったから、自分たちはセックスをするのだということくらいは理解できたのだ。
予想外だったのは、そのセックスがまさかの自分が受け身だったこと、あんなに何度もする羽目になったこと、そしてその場でさようならだとばかり思ったら清光が家まで送ると言い張ってここまでついてきたことだ。
シャワーはもう二度も浴びたからもういいと、則宗は服のままベッドに倒れ込んだ。もちろんうつ伏せだ。
清光ははじめてだと言った則宗のことを丁重に扱ってはくれたが、もうつらいからやめてほしいと何度訴えてもやめてはくれなかった。
おしごとの…話だよ……
異動の話が出始めたのもあって管理職との面談があったんだけどさ〜〜〜〜〜〜
管理職は部下氏のアレなところをわかってくれてるので遠慮なく
「今担当している業務そのものにまったく興味がなく、そのため仕事をしてて疑問を抱くと言うことがない。典型の仕事をこなす速度は上がってるけど、そこからちょっとでも外れるととんちんかんな成果物が上がってくる」
という話をしました
めっちゃ頷いてくれた
「人間性と言うか、何かを学びたいみたいな気持ちはいっさいないっていうのは自分の目から見てもわかるし、先日もスキルアップのための研修(一応言っておくとかなり長期でしかも不在の間の仕事は完全に残りの人で分担するんだよ!)に行かないかと話を振ってみても『必要を感じない、行けという命令であれば行く』という返事だったんだよね…」
……断ったの!?!?!?
今の支社に長居したいつもりらしいけど、それならなおのことスキルを身につけておかないとマジで持て余される無能になるが…
ていうかその研修、希望してもなかなか行けるもんじゃないんだよね
今の支社にいると半強制だけど地方の小さいところだと希望を出しても跳ねられるようなやつなのに
センシティブな則清とか加則加とか
あたたかいカフェオレの湯気をふっと吹いて一口飲むと、青年はいたずらっぽい笑みを浮かべて則宗を見やった。
「あんたは俺のこと知ってるの?」
則宗は黙ったままかぶりを振った。うん、と相手は頷く。
「だと思った」
どういう意味だろう。
「でも名前はわかるんだね。そーだよ、俺の名前は加州清光」
「かしゅう、きよ、みつ……」
「よくできました」
笑って青年——清光は音を立てずに手を叩いた。
「あんたは?」
「僕は……僕は、一文字則宗だ」
声が掠れる。清光を真似て紅茶を飲もうとカップに手を伸ばすと、震える指がソーサーにぶつかってがちゃんと音を立てた。
その手に、清光の手が重なった。弾かれたように顔を上げる。
濡れたような深い柘榴色の双眸が則宗を射抜いた。
「……寒いね。手が冷え切ってる」
そう言うかれの手は温かかった。思いの外長く骨ばった指が、コートとセーターの袖口からするりと中へ入り込んで手首の内側をなぞる。
ぞくりと背筋が震え、同時に身体の奥に熱がともった。
「あったかい場所に行こうか」
則宗はわけもわからずに頷いた。
編み物は無心になれるのでいいと思います!!
編み物は…目を使うのでは…!?
センシティブな則清とか加則加とか
「清光」
という名が口をついて出たことに、則宗は驚いた。だが、今までどんなに脳裏の霞の中に目を凝らしても見えなかった、あの美しいアバターを作るときにぼんやりと浮かんでいた若者の名が清光であることに、則宗はいっさいの疑いを持たなかった。
呼びかけられた青年は椅子の上ですんなりと細い脚を組み替えながら則宗を見上げ、先を促すように小さく首を傾げた。透明の雫のようなイヤリングが光を弾いて揺れる。
「あ——」
と言って則宗は絶句した。
喉が塞ぎ、声も言葉も出てこない。
一体何を言えばいいのだろう。自分が確信しているのはこの青年の名が清光であるということだけで、他に何のよすがもないのだ。
立ちすくんで息を詰まらせている則宗を見上げ、青年は軽く笑ってからちょうどカフェオレを運んできた店員に声をかけた。
「この人、俺の連れなんだ。そっちのテーブルと合流していいかな」
店員はにこやかに頷き、則宗のテーブルにあった食べかけのプリンと紅茶を清光の席にセットして静かに店内へ下がっていった。テラスにはふたりだけが残される。
「座ったら?」
と言われて則宗はどすんと椅子に尻を落とした。混乱と高揚とで、手足がぐにゃぐにゃに溶けてしまっているようだった。
センシティブな則清とか加則加とか
『車両が混んでいて動けなかった』
なるほど、と思ってから混み合う電車に乗る則宗を想像してみる。どうにもぴんと来ない。
『電車、乗るかなあ』
『俺もそう思った。だが俺が電車に乗るのだから御前もきっと乗るだろう』
長谷部が立ち上げたSNSのトークルームを覗くのは、清光の夜眠る前の日課になっていた。
博物館で則宗を思い出してからすでに一年が経過している。その間に安定にも堀川にも再会したが、いずれも同じ本丸の男士ではなかった。
清光は灯りを消したベッドの上で寝返りを打ち、日光への返信を打ち込んだ。
『路線と時間は?』
次の休みに、その路線に乗ってみるつもりだった。
おしごとの愚痴などだよ
ショクバのよそ部署の人が「部下がささいなこと(例:持ち帰るつもりの文具が鞄の中に見当たらない)ですぐに机を蹴ったり叩いたりする」という話をしていて、いやーーーーーームズいっすねーーー!!!てなった
やめた方がいいに決まっとるんだが(机叩く人にも部下がいるので…)医師から「多動の傾向がある」と言われたと自分であちこちで言ってる人なのでおそらく特性のひとつの出方なんだろうとは思うものの、じゃあそれを周囲の人間はどこまで我慢すべきなの?という…
起きてることだけ見てると(仕事で気に入らないことがあると机を叩いたり蹴ったりする)普通に職場環境を悪化させる類型のパワハラなわけなのでいずれ誰かに訴えられるのでは?という感じなんだけど、単に上司から注意されただけでおさまるような行動でもなさそうだし…
産業医入れた方がいい案件のような気がするんだが
ブルスカログインしてる人しか見えないんですが
今週日曜から開催のイベントに参加する予定です
ウフフ
みんなグラディエーターII観て苦労人の将軍とか無闇にセクシーなバイセクシャルの成金とか倫理観が死んでる双子を摂取してほしい
https://bsky.app/profile/kakkasouyou.bsky.social/post/3lckwlkiu622w
センシティブな則清とか加則加とか
この宗三は清光の本丸にいた宗三ではないが、一度言わないと決めたことをそう簡単に翻す性格ではないのはきっと同じだ。
「会えるのかな、俺も」
心細さが声に出てしまった。
宗三はからかうでもなく微笑み、小さく肩をすくめた。
「さあ、どうでしょう」
気休めを言わないのが宗三らしい。清光は本丸にいた宗三のことを思い出して笑った。
会えるかどうかなんてわかりませんよ、と言った宗三とは、しかしながらその後もやり取りが続いた。
宗三自身はかつての刀剣男士たちとの再会にさほど興味がない様子だが、同居の長谷部が熱心なようだ。同じ本丸の男士にはその後巡り会えていないと言いつつ、出張ついでに各地で男士を見つけてじわじわとネットワークを広げているらしい。
間に僕を挟むのも面倒でしょ、と宗三に言われて長谷部と直に連絡を取り合うようになってからは早かった。
SNSのグループトークで目撃情報が飛び交う。精度は案外高くはなく、見間違いやら勘違いも多かった。だから清光も、そのテキストを見たときにあまり期待しないようにと自分に言い聞かせた。
『あれは多分御前だ』
送信元は日光一文字だ。
あやふやな物言いを好まないかれには珍しい口ぶりに、清光は眉根を寄せた。
BL GL大好き。ReSoner。
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