君たちはどう生きるか(感想) 

一部内容についての言及があるので未見の方は先に映画を観ることをお勧めします。(8割くらいは概念のような話をしています)



観てきた。


この作品は「意図してわかりにくく描かれた作品」だなあと思った。

話の筋を掴んで楽しむための作品ではなく、添えられたテーマを感じ取ってもらうための構成であり表現だなと。
よく伊藤悠先生の作品を「右脳で読むまんが」と言っているがそれに近い印象で、論理的で筋道立った理解よりも感覚的な情緒による気付きが先に来るよう描かれていると感じた。

感想でよく「長い夢を見ているようだった」というのものを見かけたが、正しくそういった受け取り方をされることを狙ったのではないだろうか。
要所要所できちんと状況が繋がる描写があり、恐らく何度か観ればきちんとストーリーの主軸を語ることはできるが、伝えたいテーマはそこではないためあえて読み取りにくくして一番伝えたいメッセージが最も印象強くなるよう製作したように思える。
宮崎駿監督は元々右脳表現(感覚的の意)のほうが得意な方なのだと思うが、他の作品では今作よりも分かりやすくストーリーを明示しているのでこの分かりにくさはやはりあえてなのだろうなあ。

これは上映時間にも表れていて、単に眞人さん主観のストーリーを描くだけならもっと分かりやすく内容を伝えることで数十分は時間を削れたように思える。
けれどこの作品の「非言語による感覚的な描写」はそれを表現したり受け手側が感じ汲み取るための間がとても重要で、この見せ方を選択した故の124分なのだと思う。
初めに上映時間を見た時に伝え聞く内容の割に長すぎないだろうかと思ったが、上映後はこの長さは表現上必要なものなのだと腑に落ちた。

元々映画を観に行くに至った理由が

"アニメダイナミックコードを原作ダイナーじゃなくて駿作品でやったらどうなるかって感じの作品"
という感想を目にしたことなのだが、恐らくアニメダイナミックコードの独特な間の取り方と君たちはどう生きるかの感覚に作用させるような表現と時間の使い方、どちらも一般的な商業作品からは外れる表現演出で、同じではないものの相似するところがありそういった印象を抱いたのだと思う。
アニメダイナミックコード自体、制作の都合という事情はありつつ作中の説明がかなり演出に寄った作品だったので表現の方向性は君たちはどう生きるかに近く「なんかよく分からないけど良い」と感じる視聴者が一定数存在する作品であり、その「なんかよく分からないけど良い」という感覚に至らせるための表現がより効果的になされているのがこの作品なのだと思う。

面白いのは、宮崎駿監督によって作り出された上質な「よく分からないけど良い」作品故に、内容について言語化して理解を深めたい・まとまらない思考を整理したい気持ちと同等かそれ以上に「この感覚的な『良さ』を手放したくない」気持ちが芽生えていつまでも胸に飼っているおきたい気分になっていること。
SNSで他者の感想を拾いやすくなった昨今では色んな感想や考察を集めることで作品の輪郭をはっきりさせていくことも楽しみ方のひとつだと思うが、そうした集合知によるひとつの"正解"を導くよりも、自分にとっては自身が感じた「なんか良かった」をずっと抱えておきたいと思うような作品だった。(大っぴらに感想を開示する割合が少なく感じるのは公開直後でのネタバレ配慮もあるがこれも理由のひとつの気がする)


作中で特に良かったと感じたのがエピローグの短さ。
本当に必要最低限の変化した眞人さんの環境の説明だけであっさりと幕を閉じる。
語るべきことはもう全て描いたと言わんばかりの淡々とした描写と本編後の道筋について詳細に示唆しない描き方そのものがタイトルに繋がるのだろうなと自分は読み取った。
物語の読み取りにくさすら、受け手が共通認識を持つことを阻害し自身で考えされるための手法なのかと思うほど美しい構成と表現演出の映画だった。


結論としては「好みの差は出やすいが『なんか良い』か『もやもやする』を持ち帰られたなら充分な作品」です。面白かったー
:tori_enaga_mochi:

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独自タグ作ったから過去の感想にも付けとこ。
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