その後、アライさんはすっぱりとフタラン系ドラッグの合成をあきらめ、完全に別な構造を模索し始めたのだ。いろいろ作ってみて、効く物もあったし効かない物もあったのだ。そのうちいくつかはツイッターで知り合った人たちにサンプルを送ってみて、好評だった物もあったのだ。いつしか、フタラン系ドラッグの件は過去の思い出になりかけていたのだ。
そんなある日のこと、アライさんはisomerdesign.comというウェブサイトで化合物を検索していたのだ。このサイトはアレクサンダー・シュルギン氏のファンが作ったサイトらしく、様々なドラッグが載っている膨大なデータベースなのだ。多分載ってないだろうと思いつつ、念のためにフタラン構造のフェネチルアミンを入力して検索してみると、意外なことにフタラン構造を持つものが出てきたのだ!
ちなみに今日の時点では、図の5種類が載っているのだ。
もっとよい方法はないか……アライさんはそう考えたのだ。調べた結果、フタリドという化合物を水素化ホウ素カルシウムで還元すれば、ベンゼンジメタノールが作れることが分かったのだ! 水素化ホウ素カルシウムの試薬はすごく高価だけど、安価な水素化ホウ素ナトリウムと塩化カルシウムを混ぜると作れることが判明したので、アライさんは早速試してみたのだ。すると反応液がどんどん白く綺麗なシャーベットのようになって、ついにはマグネチックスターラーの撹拌子が動かなくなってしまったのだ……
だけど、本格的に作る場合はメカニカルスターラーを買えばいいと思ったから、とりあえずこっちの実験の方は途中でやめて、今もそのシャーベット状の反応液をそのまま放置しているのだ。
フタランの製造の話はこれくらいにして、次はいよいよ目的のドラッグを合成しようとした話に進むのだ。
じゃあ早速、思い出の計画倒れ化合物について語ってみるのだ。
ある時アライさんは、「これまで誰も考えたことがないような構造を思いついてヒットを飛ばせないだろうか」と考えていたのだ。頭の中でいろいろと考えていたら、貼った図で「フタラン」と書かれている構造を唐突に思いついたのだ!
図の中で「MDMA」と「メチロン」と書かれているものは世界的に有名な人気ドラッグで、その構造のうち左側の部分は「メチレンジオキシベンゼン」とか「ベンゾジオキソール」と呼ばれるものなのだ。この構造の酸素原子(「O」というローマ字)の位置を入れ替えたものがフタランと呼ばれるものなのだ。
MDMAもメチロンも日本では違法薬物だから市販するわけにはいかないけど、そのフタランアナログ(アナログとは類似品という意味)ならば脱法ドラッグとして大ヒットするに違いないと踏んだのだ。そして大きな希望を抱いてフタラン系ドラッグの合成作戦がスタートしたのだー!
元は脱法ドラッグの一ユーザーだったけど、趣味が嵩じてドラッグの独自開発に手を付けたアライさんなのだ!