『みなものかがみ』
水の底から世界を見上げている。透明なみなもに花びらが落ち、舟は軽やかに滑る。
なんて明るい、光の波間。
遠くにかすむ、向こう側。
過ぎゆくいつかの幻を見送った。さまよえるきのうの夢を深く暗い場所に沈めた。そうして私も眠りに着こうとした時、横たわる私の頭上でみなもが割れる音を聞いた。
しなやかにうねるひれをもつ身体が、大きな飛沫をあげて静かな境界を打ち砕く。強く輝くまなざしが水の底に光を運ぶ。
彼方からやって来た人魚は、私とそっくり同じ顔で不敵に笑った。
さあ、何処へ行きたい?
私と人魚は見知らぬ世界を目指して水の底を離れた。
揺れるみなもには、無数のあしたが映し出されていた。