『箱の中にはいつも雨が』
その箱の中にはいつも雨が降っている。
知らない国の、知らない空だ。私はいつからか手元にあったその箱を大切にしていたが、慮外者の友人ときたらいっぺん逆さまにしてみようなどと言う。ある日のこと、彼は私の目を盗んで本当にそうしてしまった。
逆さまになった箱の中から空が、雲が、雨が、溢れ出す。無限の煙色に巻かれながら、私は思い出した。
知っている。見知らぬ空などではない、遠い昔、私が私でなかったとき、ずっと忘れていた、雨のにおいを。
何かの拍子に箱が上向きに戻ったのだろう。気がつけば私はただ立ち尽くしていた。すべてはまた箱の中に。寂しさのあまり涙が一粒こぼれる。友人もまた、おいおいと泣いていた。