毎週月~金の21時ごろから、ご紹介いただいた #風土記系FT 作品の読書感想を流しています。
次回は2023/11/20(月)

ツイッター(X)では、本日、ワンライ企画も開催中!
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ワンライむりだったー、けど楽しかったー! :blobcataco:
ファンタジーな習作として仕上げました。季節に鍵をかける姫君のこと。今日はツリーに本文ぶら下げてみます。
kikimory.notion.site/54aef738d

冬の城-1/2 

 その城には、ひとりの姫君と幾人かの召使いたちが暮らしていた。
 雪が溶ければ花を摘み、水が温めば川に足を浸す。実りの季節には揃って森へと出掛け、かごいっぱいの収穫物を抱えて城に帰る。人々は静かに、彼らの城を守って暮らしていた。
 玉座はいつの日からか空っぽであったけれど、姫君の言いつけを守ってさえいれば困ったことは何も起こらなかった。
 姫君が人々に申しつけたことは二つある。
 ひとつには、決して城を遠く離れぬこと。
 ふたつには、収穫を終えて冷たい風が吹き始めたなら、城のしきたりに従うこと。
 扉という扉を閉ざせ。手につるぎを、或いは灯火を持ち、空白の玉座の前に集え。
 姫君はいまだ年若く朗らかに笑う娘であったが、ひとたび木の葉を枯らす風が吹けばそのかんばせは白く凍りついた。その瞳はただ人々の有り様を映し出すばかりの輝ける鏡となった。
 姫君は騎士の男が恭しく差し出すつるぎを受け取り、召使いの女が恐ろしげに差し出すつるぎを受け取った。こどもからは真っ直ぐな眼差しと、絶えることなく燃え続ける燭台を。

冬の城-2/2 

 姫君は召使いたちを残して、ただひとり物見の尖塔に上がった。
 長く長く息を吐く。いのちの熱を示す白い霞が冷たい風に奪われてゆく。
 最初のつるぎを振るえば、人々は糸が切れた人形のように、眠りについた。
 二番目のつるぎを振るえば、城は世界から切り離された。
 残された姫君は、彼女の民の誰もが凍えぬように、暗闇に惑わぬように、塔の天辺に高く灯火を掲げる。
「ねむれ、ねむれ。まどろみよ、季節を閉ざせ」
 遠く、どこかで、かしゃりと鍵の掛かる音がした。確かに、届いた。
 姫君はしばらくの間じっと耳を澄ますようにしていたが、やがて衣の裾を手繰って世界の外側に背を向ける。
 この城に滅びの季節が訪れることはもう二度とない。
 そしてかりそめの玉座に腰を下ろした姫君は、はるか昔の出来事に思いをはせる。
 すべての思い出を丁寧にまどろみの底に沈めて、季節の狭間に閉じ込めた城の中、目覚めの春の訪れを待っていた。

参加したかったワンライ企画はこちらです。異世界風土記というキーワードが秀逸で震えます…初めて拝見したとき、そうか、風土記かあ!と感動しちゃいました。
mstdn.jp/@isekaifudoki/1114316 [参照]

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