梅田孝太「ショーペンハウアー」
“他者を苦しみから救い出そうと、つい身体が動いてしまう。ショーペンハウアーによれば、こうした他者と「共に苦しむ」感情こそが真に道徳的な感情であり、そうした動機の持ち主こそが真に有徳なひとなのだという。”
“ショーペンハウアーが徳として提示するのが「正義」と「人間愛」だ(「道徳の基礎について」第十六節、邦訳三二八頁)。それをひとつの命題の形にすると「誰をも害するな、そしてむしろ、できるかぎり万人を助けよ」となる。これは「倫理学の最高の基本命題」と呼ばれるものだ。”
“真に道徳的なひとであっても「他の人々の苦しみを緩和してあげるといったこと」くらいしか、できることはない(主著正編第四巻第七十六節、邦訳百五十七頁)。そうした道徳的な行いの源泉となるのが、「他人の苦悩に対する認識」であり、「他人の苦悩を自分の苦悩と同一視している」ときの感情、すなわち「共苦」なのである。”