松樹凛さんの『射手座の香る夏』を読了。傑作!
以下感想。
表題作は先端科学の神殿が太古の黎明より到来したブラックホールに吸い込まれて瓦解する、〈熊が火を発見する〉ならぬ〈狼が伊藤計劃を発見する〉というべき意識SF。脆い青春が野生の夜のなかで夏の陽炎のように消えた、脆い青春の残像が瞼に張り付く。
「十五までは神のうち」は、白井智之に脳髄を乗っ取られた古市憲寿みたいな平成歴史改変特殊設定ミステリの異様さが全く目立たないほど途方もなく濃厚な黒いノスタルジーが染み込んだ、反出生主義望郷SF。歴史改変SFに実在のアニメ邦画が出てくるのは本作と仁木稔「The Show Must Go On!」くらいでは?
「さよなら、スチールヘッド」は、コスモスの黄昏とカオスの朝焼をサリンジャーがつなぐ、アメリカとユートピアをめぐるシネマティックな夢SF。ありがとうバクテリア……。
「影たちのいたところ」は、ジブリ風なファンタジー要素を用いて社会を鋭く穿った、逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』を彷彿とさせる作品。山上たつひこ『光る風』の言葉〈過去、現在、未来――この言葉はおもしろい/どのように並べかえても/その意味合いは/少しもかわることがないのだ〉を思い出す。