紅坂紫さんが企画・編集した〈通過儀礼〉がテーマのホラー掌篇アンソロジー『INITIATION』を読んだので感想。
一番刺さったのが三世拓也「幇助旅館」。夏でも日照時間が五時間ほどしかない山間部にその村はあって、という書き出しにまず斬られた。田中哲弥『猿駅/初恋』のトラウマが蘇る怖さ。
ときのき「友愛会」もすっごく好き!何気ない出来事から異常な世界の全貌が徐々にクリアになっていく、どこに行き着くかの不安が別ベクトルのホラーという感じで脳が焼かれそう。同じ理由で稲田一声「丸くなったね」と鯨井久志「室崎凛「解剖学教室就任の挨拶」より抜粋」もツボに刺さりまくり。
渋皮ヨロイ「完璧な静寂」と阿下潮「真眼を得る」は通過儀礼そのものを真正面から描いた王道ホラー。架空の儀礼のディテールの細やかさに舌を巻く。「完璧な静寂」は儀礼を包み込む社会そのものを一から想像し、「真眼を得る」は世界の皮一枚の向こうからじっとりとした闇がこちらを観ているかのよう。
紗梨奈「適応済み」は儀礼ではなく〈儀礼の不在〉を描くことで白い空漠がどこまでも広がってるような恐怖を描く。
紅坂紫「さやかに」もまた儀礼の外側を描いた作品だが、タイトルの意味がわかった瞬間に鉛を飲んだようなダメージを食らって内臓が抉られそう。海を見るたびに思い出しそうな重さ。