【私たちという兵器】ロッカーを叩いた手は沢山の人々の命を救う手で、軋んだ金属の音は悲鳴の様だった。
「調子が悪い日なんて救急医療には有り得ないんだよ!エリン!あたしが誰かを殺しますよって意味!」
「もしエイドゥルを裁くとしたら、法律かもしれない。例え誰にも褒めらなくても、誰かに訴追されても、エイドゥル自身を赦せるのはエイドゥルだけなんだよ」
鈍く吠える様に音を殺して泣いたエイドゥルは、皆の言う通り外科医らしくない。涙を流せるのは弱さじゃない、泣きたい時に泣けない時程崩れて行くのをエリンは知っていた。命を救う大切な手に口付けする。
「やめてよ。誰かじゃない、エリンの救いになれたら良かった」
「救いも、わたし自身にしか出来ない」
「ならいつかきっとあたし、神様になってやろうかな」
「エイドゥルが神様になったら困っちゃうよ」
「その時はエリンもビフレストに連れてくけど?」
空想好きな優しい目はおかしなくらい、燃えていた。何になってもエイドゥルのまま、きっと泣いてしまう。黄昏時の黄色はラグナロクを思わせる鮮やかなまま、穏やかな夜空にいずれ飲まれて朝になる。明けない夜の方が優しい事を知っているのに、雨の日にアップルパイを降らす様な事をする人だった。