ナンシー・フレイザー 著/江口 泰子 訳『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(筑摩書房、2023)読了。
「資本主義とは何か」という最初の問いに対し、経済システムのみを指すのではなく、「制度化された社会秩序」と見做す。その社会のなかでは、経済化された行動と関係は一つの領域に仕切られ、ほかの非経済的な領域とは区別されてその上に成り立つが、 経済化された行動や関係が非経済的領域に依存しているという事実は否定される。
資本主義社会は「経済」領域を含み、「政体」もしくは政治秩序とは区別される。また「経済的生産」領域を含み、「社会的再生産」領域とは区別される。さらに搾取関係を含み、収奪関係とは区別されるが、収奪関係は否定される。資本主義社会は人間活動の社会歴史的な領域を含み、自然の物質的な土台とは区別される。そして、その全ての上に成り立つ。
資本主義の前提条件を「人種的な収奪」「社会的再生産」「地球のエコロジー」「政治権力」と立項し、みずからの存在基盤を構造的に共食いしようとする社会秩序と、矛盾に満ち、危機を引き起こしやすい特徴について明らかにしている。
【コストを転嫁しておきながら、その転嫁を否認している】という点が、非経済的な不正義、不合理、不自由を照らし出していて、ハッとした。