手袋の手を挙げ人の流れに没りぬ 『皿』
別れの挨拶として手を挙げる。後ろ姿であろう。大きく腕を振らずとも、グッドバイの仕草であることは見ている者には伝わる。手袋の色・形が浮かんでいるように見える。しばらくはその手袋だけを目で追うこともできるかもしれない。しかし、やがて、それも人波に吞まれていく。
離別しきってしまう前の名残惜しさは、完全に一人となってからの寂寥感よりエモーショナルかもしれない。
没りぬ〉と人の流れに入ったところまでしか描かず、程なくそれが消えていくことを、読者に予感させるところに表現の冴えがある。「冬 二九句」。
岡田一実『篠原梵の百句』より
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