濱松哲朗『翅ある人の音楽』(典々堂、2023)読了。
少しだけ読もうと思ったら、ぐっと引き込まれて読み切ってしまった。
「生きづらさ」と言ってしまえば単純だが、人であることの本質的な悲しみに切々と迫っていく。「翅」という異体のモチーフも、文語の「イマココ」感から遠い文体と響き合っていて、痛々しく心を衝いてきた。
耳鳴りににじめる声のとほくあれば黙秘のごとくゆふだちに入る
君の死後を見事に生きて最近のコンビニはおにぎりが小さい
随分ととほくまで来た 自転車でどこへでも行く大人になって
色彩の果てなる夜に鬼灯の実のうづきつつ照り深まらむ
Tシャツは首まはりから世馴れして部屋着つぽさを刻々と得る
氷とはみづとひかりの咎なるを鳥よこの世の冬を率るよ
みづからに疲れてをれば其処にありし他者(ひと)の苦悩に気づかざりけり
落涙の前ぶれとして微笑めばわれにこの世のひかり眩しも
全身に目玉のひらく感触の新宿駅に夜気はせはしき
エレベーターごとゐなくなる物語われに起こらず十階へ着く